【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 767】オールインクルーシブ導入戦略(1) 青木康弘


 宿泊業界において「オールインクルーシブ」という言葉を耳にする機会が増えている。これは宿泊料金に夕朝食や軽食、ドリンク、アクティビティの利用が含まれ、滞在中は追加料金を気にせず過ごせる仕組みを指す。海外リゾートでは一般的な料金体系だが、日本では2023年ごろから注目を集め始め、高付加価値層やファミリー層を中心に支持が拡大している。

 Googleトレンドによれば、2022年ごろから「オールインクルーシブ」の検索件数は上昇を始め、2024年初頭から急増している。YouTubeでも関連動画が増え、数十万回再生を超える事例が目立つ。すでに消費者の関心は高く、宿泊施設選びの重要な要素になりつつある。

 人気が高まった背景には、利用者と施設側のニーズが合致したことがある。利用者にとっては、料金の分かりやすさと安心感が得られ、財布を気にせずに滞在できる体験は旅行満足度を一段と高める要素となる。

 一方で、施設側にとっては、売り上げ管理の簡素化、スタッフ配置の効率化、付帯設備の有効活用といった効果が期待できる。追加販売に依存しない収益モデルを構築できれば、収益基盤はむしろ安定化しやすい。顧客満足度が高まれば、口コミ評価やリピーター獲得にもつながりやすいというメリットがある。

 もっとも、導入にあたっては、慎重な検討が欠かせない。これまで別注料理やドリンク販売を収益源としてきた施設では、そのまま料金に組み込むと利益率が低下する恐れがある。したがって、どのサービスを料金に含めるかを丁寧に設計し、利用者に価格以上の価値があると感じさせる内容に磨き上げる必要がある。

 オールインクルーシブを単なる値上げ策としないことが大切だ。滞在全体を価値ある体験に変える戦略として位置づけ、地域の食文化や体験プログラムを積極的に取り込むことで、施設の独自性を高めることが重要だ。大型施設においては多様な付帯施設と組み合わせた総合的な滞在価値を、中小施設においては地域の特性を生かした手づくり感を、それぞれ強みとして発揮したい。

 オールインクルーシブは、施設規模を問わず、宿泊業界全体における収益構造の見直しと差別化の手段として大きな可能性を持っている。今後の競争環境を見据えた中で、導入の是非と具体的な設計を前向きに検討していきたい。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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