
決済プラットフォーム大手アディエン(Adyen)が発表した年次調査「ホスピタリティ&トラベルレポート2025」によれば、日本のホスピタリティ・旅行関連企業の約46%が「AI検索ツールの普及により業界構造が変わる」と予測し、41%が「体験のパーソナライズ化が変革の鍵になる」と回答した。すでにAIを導入済みの企業は35%に達し、検索から予約までの仕組みそのものが再設計されつつある実態が明らかになった。
こうした潮流を後押しするように、米グーグルは8月21日、検索の新機能「AIモード」を発表した。搭載されたエージェント機能は、人数・日時・場所・嗜好を入力するだけで複数の予約サイトを横断検索し、空席確認から予約までを自動で完結させる。現状はレストラン予約に限られるが、宿泊やイベント分野への拡張も視野に入っており、旅行検索と予約を検索エンジン内で完結できる時代が目前に迫っている。
この変化はSEO戦略にも直結する。従来のキーワード最適化だけでは不十分であり、自然言語や音声検索を意識した情報設計が不可欠となる。加えて、グーグルが重視するE―E―AT(専門性・権威性・信頼性・体験)は、実体験に基づくレビューや宿泊者の声といった信頼性の高いコンテンツを評価する方向にある。
さらにSNSやUGC(ユーザー生成コンテンツ)の影響力が増しており、旅行者の投稿がAI推薦の根拠となるケースも多い。
一方、日本の消費者で旅行検索や予約にAIを活用する割合は11%にとどまり、世界平均34%を大きく下回っている。しかし利用意向をみると「旅行中のトラブル対応」(65%)、「情報ノイズの軽減」(62%)、「パーソナライズ提案」(63%)など期待は高く、潜在的な需要は明確である。利用率は低くとも、AIを通じて提供すべき価値が浮かび上がっている。
いまやWEB集客は単なる流入導線の最適化ではない。AIによる検索体験を前提とし、UGCとの共創や予約プロセスを包含するエコシステムの構築が重要になりつつある。観光・宿泊事業者は、AI検索に適合した情報発信を行い、利用者体験を可視化するUGC活用を並行して進める姿勢が不可欠である。
AI検索とエージェント機能の登場は、旅行・宿泊予約の入り口を根本から塗り替える変革である。事業者は「検索される存在」にとどまらず、AIに推薦され、選ばれる存在にならなければ勝ち抜けない時代が迫っている。
(株式会社プライムコンセプト 小林義道)