
西岡氏
若者と異業種との共創を
2021年4月、地元・横浜で豪華客船「飛鳥Ⅱ」から新型コロナウイルスの陽性者が確認され、連日ニュースとなった。当時、予想もつかないほどの影響が観光産業を直撃した。その年、私は大学在学中に旅行系のベンチャー企業を立ち上げた。観光業界が抱える「薄利多売」の構造に課題を感じ、知名度の低い観光地へのプロモーション不足を解決したいと創業した。以来、全国の自治体と連携しながら、観光資源の開発や地域プロモーション、温泉地のDX支援、さらにはインバウンド向けの温泉ギフト「HAKOYU」の販売など、多様な事業を展開している。
旅そのものは若者に根強い人気がある。「趣味は旅行」と答える学生は少なくない。私も毎年、母校を中心に50人ほどの大学生と連携している。しかし「観光業界は若者の人材確保が難しい」と言われる通り、旅行が好きでも「旅行/観光業に就職したい」という学生はごくわずかである。
理由はひと言で言えば、“新しさ”が感じられないからだ。AIやディープテックなどと比べると、観光産業には革新性が乏しく映る。また、業界内で新しい取り組みをしようとしても、合意形成に時間がかかり、若者にとって貴重な時間を割く価値を見いだしにくいのが現実だ。私自身も、知人の起業家がアプリを開発し、数カ月でリリースと改善を繰り返していた一方で、地域との合意形成に1年半を要した経験がある。その間アプリは数度もバージョンアップされ、何周もPDCAを回していた。
これは若者に限らず、異業種からの参入者についても同様だ。かつて観光×AIで起業した優秀な学生がいたが、産業構造に阻まれ撤退。その後、彼の会社は東大の松尾研究所に認定された。優秀な人材が観光業に興味を持っているのに、定着できないのは非常にもったいない。
だからこそ、異業種や若者の挑戦と既存の産業基盤を「クロスオーバー」させる発想が重要だ。私は3年前に仲間と「観光クロスオーバー協会」を設立し、観光庁と連携して地方自治体や企業とスタートアップによる実証実験の支援を行っている。今年8月1日には、大阪・関西万博の会場内で、多様な立場が交わる「観光クロスオーバーサミット」も開催する予定だ。
人口減少が進む日本において、「観光」は国を支える大切な産業である。若者と異業種の参入を歓迎し共創を進めてこそ、観光産業の未来が切り拓かれると考える。政府や関係団体の積極的な支援が、今こそ求められている。
西岡氏