
世界的に酷暑が続く中、日本へのインバウンドは順調である。7月の訪日旅行者数は343万人、今年1月からの累計で2495万人に達している。国別ベスト5は、中国97万人、韓国67万、台湾60万、米国27万、香港17万で、東アジアからの訪日が全体の約7割を占めている。
インバウンドの順調さは慶事であるが、その一方で世界的に異常気象によってさまざまな災害が頻発しており、憂慮している。北欧諸国では記録的な熱波で住民の生活や生態系が脅かされ、南欧諸国では記録的猛暑が続いて大規模な山火事が拡大している。インド北部山岳地帯では河川での出水・増水による土石流が頻発し、大きな被害が生じている。日本でも全国的に40度超えの記録的な高温が続くとともに、各地で頻繁に線状降水帯が発生し、短時間で記録的な大雨になり、洪水や土砂災害など甚大な被害がもたらされている。
トランプ政権は米国第一主義の立場で地球温暖化を軽視し国際連携から離脱しているが、世界各国の専門家は人間活動による地球温暖化の影響がなければ、極端な気象変動は起こり得なかったと結論づけている。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も「地球温暖化の人為起源は疑う余地なし」としている。
2023年の国連総会において温暖化で危機にある南太平洋の島国の提起によって、気候変動対策について国連の司法機関である国際司法裁判所(ICJ)に見解を求める決議が採択された。総会決議を受けて、ICJは今年7月に気候変動対策について世界各国は国際法上、「あらゆる措置をとる義務がある」という勧告的意見を初めて出した。
ICJは近年、気候変動をめぐって人権侵害などで国や企業を訴える訴訟の増加を踏まえて「清浄で健康的で持続可能な環境」を全ての人権の前提とみなして、国家の義務は気候変動条約だけでなく、国際慣習法や国際人権法も含まれると判断した。さらに削減目標の設定は国際ルールのパリ協定の1・5度目標に沿う必要があり、化石燃料の消費や生産、補助金などを国際法の不法行為とみなし、それらの結果として被害が出た場合には法的責任を問えるとしている。勧告的意見には法的拘束力がないが、これまで国際交渉で曖昧にされてきた先進国の排出責任などに踏み込んでおり、「気候正義」への指針を明確にした点は評価できる。
米国のトランプ政権は「国連」軽視とともに、法によって正義や秩序を保つ「法治主義」軽視が著しいためにICJによる勧告的意見は無視される可能性が大である。日本は今後、日米同盟を基軸にしながらも、国際協調主義や法治主義を重視して、ICJによる気候変動勧告を率先して順守すべきだ。しかも現在のICJ所長は岩澤雄司氏が務めており、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長と共に、日本人裁判官が国際司法分野で大活躍していることは実に誇らしい。
言うまでもなく、観光の良し悪しを左右する重要な要因の一つは天候だ。観光産業の関係者は地球温暖化に伴う気候変動による諸々の災害、紛争、凶作、疫病などを視野に入れながら、より良い日本観光の創出に尽力していただきたい。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)