
月次の収支実績が出そろい、各部門責任者が集まる定例会議。食材原価率、人件費比率、客室稼働率、部門別売上実績。あらかじめ設定したKPI(重要業績評価指標)に基づいて、淡々と数字が報告されていきます。
「今月の食材原価率は35.0%でした。目標値との差は0.3ポイント上振れですが、誤差の範囲内です」「宿泊部門の客単価は前月比103%で、ほぼ計画通りです」
このような光景は、多くの旅館で見られる日常の一コマでしょう。確かに、重要指標を定めて定期的にモニタリングすることは経営の基本であり、効率的な管理手法として広く実践されています。
担当者は「そつなく自分の番を終了したい」と考え、経営者は「その原因分析が正しいかどうかの判断ができない」まま会議が進行していく。この構図こそが、多くお宿が陥っている姿なのです。
食材原価率という一つの指標を例に考えてみましょう。率だけを見て、「目標内だから問題なし」と判断していませんか? まず、率だけでなく絶対数に目を向けます。宿泊客1人当たりの食材費額はいくらなのか。この金額は、お客さまに提供している価値と見合っているでしょうか。
この数字の背景には、お客さまの満足度、食材調達の工夫、季節感や地元感、見栄え、ネーミング、献立のバランス、ボリューム、器使い等、料理の価値を左右する重要な要素が数多く隠れています。
そして、お客さまからの評価を確認します。料理に対するアンケート結果、口コミサイトでの評判、同じ原価率でも、お客さまの評価が高ければ、その投資は成功と言えるでしょう。
最後に、現場で働く調理人や接客スタッフの声に耳を傾けます。食材の質に対する料理人の評価、お客さまの反応を間近で見る接客スタッフの観察、改善提案など、現場からの生の声こそが次の改善につながる貴重な情報源です。
このように、一つの指標を「数字+背景情報」という一連のパッケージとして捉えることで、初めて真の経営状況が見えてきます。
例えば、食材原価率が上昇していても、それが地産地消の取り組み強化によるものであり、お客さまからの評価向上やリピート率の改善につながっているなら、それは戦略的な投資として評価すべきでしょう。逆に、原価率は目標内でも、料理の質が下がりお客さま満足度が低下しているなら、早急な対策が必要です。
この例からも分かるように、「食材原価率」は料理商品の一要素なのです。もっと大きなくくりでフィードバックをしていきましょう。ところがお宿では、計画数値を達成させることが一番大事なことだという風潮があるため、月次検証でも計画数値が達成されればよしとする傾向にあります。
今回は食材原価率を例に挙げましたが、あなたのお宿のKPIを同じようなくくりで「数字+背景情報」というパッケージ化をすることにより、高度な検証と改善が可能となります。
忘れてはならないのは、数字はあくまで結果だということです。重要なのは、その背景を検証し、次にどのような一手を打つべきかを判断することです。
月次の業績会議を単なる数字の報告会で終わらせず、背景分析と次の戦略を議論する場に変えていきましょう。各部門の責任者には、数字だけでなく、その背景にある現場の状況、お客さまの声、スタッフの気づきまでを報告してもらう。そして、経営者自身も現場に足を運び、数字だけでは見えない現実を肌で感じ取ってください。
失敗の法則その65
お宿の業績評価は数字だけで行っている。
その結果、結果としての数字しか見えなくなり、改善策が見いだせない。
そこで、指標は「数字+背景情報」というパッケージを新たに設けよう。
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