【地域創生と観光ビジネス82】「北東北三県・北海道ソウル事務所」で運命の出会い 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


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 淑徳大学で観光を学ぶ学生たち38人と今夏、ソウル・明洞近くの「北東北三県・北海道ソウル事務所」を訪ねた。

 同事務所は02年、青森・秋田・岩手および北海道の4道県知事による合意のもとに設置された。韓国からの道県誘客のための観光情報の提供や広報・宣伝活動、物産の販路拡大を目的とした商談会の開催、市場調査、さらには青少年の交流を促す拠点としても重要な役割を担っている。

 所長職は、北海道貿易物産振興会、青森県観光国際交流機構、秋田県観光連盟、岩手県観光協会の持ち回りで、輪番派遣という。今期、岩手県から派遣された女性所長が、日本語堪能なローカルスタッフらとともに、笑顔で出迎えてくれた。

 こうした自治体による在外事務所の設置は昭和後期に始まり、平成の半ば以降は競うように開設がなされて、今に至る。

 自治体国際化協会の調べによると、全国66自治体・305カ所(24年6月現在)で、その内訳はアジア・オセアニア・中東が240カ所ともっとも多く、欧州(30カ所)、北中米・南米(35カ所)に比べ突出する。近ごろは県単位だけでなく、政令指定都市をはじめとした市や町もが、海外に事務所を設けるようになった。

 学生にとってはK―POPや韓流ドラマ、コスメで親しみのある韓国だが、訪日観光や輸出入における日本側の取り組みが知れる良い機会にもなった。

 さて、初対面で多忙にもかかわらず、所長には観光バスに同乗してもらい、マイク片手に講話もいただいた。仁寺洞で韓定食をともにして会話するなかで何と、これが運命的な出会いとわかった。

 生まれが筆者と同じ釜石で、亡き母の母校でもある釜石南高校(現・釜石高校)の出身という。マスターズ陸上100歳以上の部でギネスブックにも載ったアスリートの私の祖父・下川原孝は、かつて同校で教頭職を務めていた。そんな話題から始まった。

 ちなみに筆者は、母が里帰り出産をしたので、釜石市民病院(当時)で生まれた。その病院は、老朽化と統廃合によって取り壊され、今の青葉ビルに建て替えられた。青葉ビルの1階には市民交流スペースがあり、津波避難所に指定されていたのである。

 東日本大震災の発災から10日目、連絡がとれない祖父らの生存を信じて私ら親族は手分けして被災地に向かった。東京から新潟、山形経由で陸路、釜石入りした父と弟は、避難所を一軒一軒、探し回っていた。自分と従弟(いとこ)は羽田発いわて花巻空港行きのJAL被災地臨時便を予約したが、その直後、Googleのパーソンファインダーに祖父の遺体が見つかったとの情報が寄せられたのだ。 

 地震のあと青葉ビルに避難していた祖父らは、迫りくる津波に襲われ落命した。自分が生を受けた場所で、奇しくも祖父らが命を落としたのである。すると、所長のお父様も同じ青葉ビルで被災され、帰らぬ人となられたと知った。「(避難先で)互いに会話していたかもしれませんね」。そう所長に言われてハッとした。臨時便にも乗っていたそうだ。

 人は、何らか意味があるから出会う。この原稿を書いている今日は、旧暦で盆の入り。近くソウルで再会することを約束した。

 (淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)

 
 
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