【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 766】変化の前兆を読み解く(5) 青木康弘


 2025年6月以降、宿泊単価の相場が崩れ、価格競争が激化している。「昨年と比べて予約のペースが遅い」「値引きしなければ予約が入らない」という声が各地から聞こえてくる。単純な値下げや販促強化だけでは乗り切れない状況に入ってきたといえる。

 背景には、需給バランスや売り上げ構造の変化、口コミ点数の低下、施設の老朽化、付帯事業の不振など複数の要因が重なっている。こうした状況下で経営を守る土台となるのは、資金繰りの安定である。

 物価高騰と宿泊単価の頭打ちが重なる中での安易な値引きは、現預金の減少を加速させる。日頃から制度融資や助成金を上手に活用し、運転資金や更新投資に備えて十分な資金を確保しておくことが欠かせない。また、現預金を厚めに保持しておくことは、突発的な需要減や自然災害など不測の事態にも耐えられる強みとなる。

 金融機関との付き合い方も重要である。特定の金融機関だけに依存するのではなく、複数の金融機関と新規取引を行い、関係を広げておくことが望ましい。平時から信用を積み重ねていれば、業績が落ち込んだ際にも円滑に資金調達が可能となり、次の打ち手を柔軟に検討できる。金融の多様な選択肢を持つことは、不透明な市場環境を生き抜くために重要な備えだ。

 人材面での対応も欠かせない。業績が頭打ちとなっている責任を現場に押しつけてしまうと、スタッフの離職を招き、サービスの質や口コミ評価の低下につながる。経営状況を丁寧に共有し、苦境を共に乗り越える姿勢を示すことが士気の維持には大切である。2025年10月に始まる教育訓練休暇給付金を活用すれば、休暇中の従業員の生活を支えつつ、スキルアップや資格取得の機会を提供できる。この制度は雇用維持だけでなく、将来の競争力強化にもつながるため、積極的に利用を検討したい。

 今は単なる我慢の時期ではなく、次の成長に向けた仕込みの時期と考えたい。施設のメンテナンスやサービス改善はもちろん必要だが、それに加えて施設全体に一貫したストーリーを持たせ、地域の魅力と結びつけた差別化を進めることが求められる。お客さまに「この施設だから選びたい」と思っていただける理由を示せるかどうかが、持続的な成長を左右する。

 宿泊市場は今後もしばらく不透明な状況が続くとみられる。その中で経営者が自ら旗を振り、先を見据えた取り組みを進めていくことが、組織を前へ導く力になるだろう。今の行動が、未来を切り開く原動力となる。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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