
一般の戸建てや集合住宅の一室などを有償の宿泊先とするサービス「民泊」。訪日外国人観光客らの受け入れ先として一定の役割を果たしているが、最近、近隣住民がごみや騒音などで住環境悪化による影響を訴えるケースが相次ぐなど、トラブルが問題視されている。テレビなどで取り上げられる機会も増えている。
背景には外国人旅行者のマナー違反がある。「郷に入っては郷に従え」ではないが、最低限のルールは守ってほしい。観光客が街中や空港にスーツケースを放置するという、にわかには信じ難いことも起きている。
スーツケースばかりではない。「民泊利用者が帰った後はそこらじゅうにごみが散乱、後片付けが大変」と、頭を抱える貸し手もいる。多くはルールに従い、利用しているのだろうが…。
特区民泊という制度がある。国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例で、参入ハードルが低い。普通の民泊は年間180日までしか営業できないが、特区民泊は多様な宿泊ニーズに応えるという名目で、1年を通して営業でき、収益性が高い。
大阪・関西万博の開催地である大阪府では36市町村がその実施エリアとなっている。内閣府によると、特区民泊施設数(5月末現在)は大阪市だけで6331軒あり、東京都大田区の313軒を大きく上回り、断トツの多さだ。大阪市内で設定された特区民泊の約4割が中国人、もしくは中国系法人による運営との見方もある。
そうした中、寝屋川市は特区民泊からの離脱を表明し、大阪府を通じて国に認定の廃止を申し立てたことが明らかになり、特区民泊の在り方に一石を投じた。「市のまちづくりの方向性と特区民泊が目指す方向性は大きく異なる」というのが理由だ。
「住んで良し、訪れて良しの国づくり(という視点)が観光立国には欠かせない」とする北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授の石森秀三氏だが、「第2次安倍政権と菅政権の下で推進されたインバウンド観光立国政策では稼ぐ観光に力点が置かれ、住んで良しが軽視された。その結果、創設されたのが国家戦略特区による特区民泊だ」と指摘。
その上で、「短期的に特区民泊を考える際、民泊事業への宿泊税徴収や住宅密集地での民泊事業の制限などについて検討する必要があるのではないか」とし、住んで良し、訪れて良しの国づくりという原点に立ち返るべきだと強調する。
民泊のメリット、デメリットを精査する時期に来ているのではないだろうか。