
猛暑きびしいこの夏。食欲が減退気味だが、こんな時のイチ押しのおやつやお茶請けに、山形銘菓の「乃し梅」がある。
佐藤屋で人気の「乃し梅」
完熟した梅をすりつぶして寒天に練り込んだものを5ミリほどの厚さに薄く延ばしたゼリー状の菓子で、甘酸っぱくてすっきりした清涼感に満たされる。
今年の「花笠まつり」は終わったばかりだが、山形は江戸時代、大きな財をもたらした紅花の産地。花の発色をよくするため多量の酸が必要なことから、梅がたくさん栽培された。
その時代、長崎に留学した山形城主の御典医・小林玄端(げんたん)が中国人からもらい、持ち帰った梅を使った秘薬をヒントに生まれたのが「乃し梅」という。
中心街に近い山形城跡
始祖が山形市のメインストリート(羽州街道)に趣ある2階家を構える、1821年創業の佐藤屋本店。
7代目当主の佐藤松兵衛さんによると、通りは出羽三山詣での往来が多く、行者宿も繁盛。その行き帰りに、疲労回復、食欲増進、血行促進、整腸作用があると甘酸っぱい梅の製品が大いに売れたという。
その後、いろいろ工夫・研究の末、地元産の完熟梅を砂糖と水飴で煮詰めた溶液に入れ、寒天を加え、1枚ずつガラス板に流して延ばす製法が生み出された。
竹皮のまま3センチくらいに切って口に運ぶと、すがすがしい梅の香り、半透明のきれいなべっ甲色、もちっとした食感と同時に舌の上にサッと清涼感が走る。
完熟の梅の羊羹(ようかん)を白い麩(ふ)焼き煎餅ではさんだ「まゆはき」も、梅を生かした風雅な和菓子である。
県内には同じような「乃(の)し梅」の製造販売の店が長榮堂、玉屋総本店など数軒あり、山形銘菓の名声を支えている。
また梅の名所で名高い偕楽園のある茨城県水戸市にも、同じ「のし梅」がある。店も亀印本舗や井熊総本家など5~6軒あり、「水戸の梅」に次ぐ地元銘菓として人気がある。
ちなみに梅の全国生産量で群を抜く63%超の第1位は和歌山県で、2、3位は5・7%の群馬県、1・8%の山梨県と続く。和歌山県ではほとんどが梅干しなど惣菜系の製品に加工。梅菓子は思いのほか少ない。
(紀行作家)
【メモ】「のし梅」=乃し梅本舗佐藤屋本店(023・622・3108)。1袋5枚入り税込み756円(取り寄せ可)。
(観光経済新聞25年8月11日号掲載コラム)