
ウーバージャパンの永妻氏が講演した
インバウンドコンサルティングのmovは8月5日、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025-まだ見ぬポテンシャルへ‐」を東京都内で開いた。3つのホールを使い、17のセッションを開催。Uber Japanモビリティ事業本部法人事業マネージングディレクターの永妻玲子氏が「モビリティが拓くインバウンドの未来」と題して講演した。
世界共通アプリの強みを生かし、訪日客の移動をシームレスに
永妻氏はまず、Uberの企業概要を説明。2010年に米国サンフランシスコで創業した同社は、現在70か国以上、1万都市以上で展開する世界最大のモビリティプラットフォームに成長。約50の言語に対応し、日本では約150万人の海外ユーザーがアプリを利用している。
日本国内では31都道府県で配車サービスを展開しており、約500社のタクシー会社と提携。サービスは「Uber Taxi」「Uber プレミアム」「自家用タクシー」「公共ライドシェア」の4種類を提供している。
「多言語対応、アプリチャットの自動翻訳機能、ユーザー・ドライバー双方の評価制度、効率的な配車マッチングが特徴です」と永妻氏。特に多言語対応と自動翻訳機能は訪日外国人にとって大きなメリットだという。例えば日本人ドライバーとのコミュニケーションでは、外国人ユーザーが英語で入力した内容が日本語に翻訳され、ドライバーが日本語で返信した内容は英語に翻訳される。これにより言語の壁を越えたスムーズなコミュニケーションが可能となる。
地方交通の課題とインバウンド需要
日本の地方交通は深刻な課題を抱えている。永妻氏は「地方のバス事業者の8割以上が赤字で、サービスの縮小が進行しています。タクシードライバーも減少し、平均年齢は60歳を超えています」と指摘。さらに2040年までに約900万人の高齢者が家族などの支援なしで日常生活を送ると推定されており、移動手段の確保が急務となっている。
こうした交通課題はインバウンド観光にも影響を与えている。電通ジャパンブランド調査2024によると、外国人が日本の地方観光で感じる最大の障害は「言語によるコミュニケーションの不安」で、全体の36.2%を占める。特に訪日未経験者では44.5%と高い数値を示している。次いで「日本の道路事情や交通ルールを理解していない」(24.2%)、「電車やバスなどの公共交通機関で行けない」(21.4%)など、移動に関する課題が上位を占めている。
Uberのタクシーサービスは2018年7月から日本で提供を開始し、利用者数は2024年に前年比2倍以上の成長を遂げている。約150か国の海外ユーザーが日本でUberアプリを利用しており、特にアメリカからの旅行者が多い。さらに韓国、台湾、香港といった近隣アジアからの利用者も増加傾向にある。
地方自治体との連携で観光課題を解決
永妻氏は、Uberが地方自治体と連携して取り組む事例をいくつか紹介した。
長野県白馬村との取り組みでは、2024年11月に地方の交通課題解消を目指し包括連携協定を締結。白馬エリアを訪れるユーザーは冬季(12月から3月)に他季節の合計の約6倍のアクセスがあり、その大半は海外観光客によるものだったという。地元のタクシー事業者5社と連携し、約4ヶ月間でおよそ5万回の乗車を達成した。
石川県加賀市では、2025年2月から日本郵便と連携し、日本初となる公共ライドシェアドライバーによる貨客混載の実証事業を開始。公共ライドシェアドライバーの待機時間を活用して荷物の配送を行うという取り組みだ。
大分県別府市では、2025年4月から海外からの観光客を主な対象とした公共ライドシェア「湯けむりライドシェアGLOBAL」でUberアプリの提供を開始。ゴールデンウィークの3週間には約1,600件の配車依頼があり、そのうち4割近くの乗客が車両不足で乗車できなかったという高い需要を記録した。
また、電脳交通との連携も進めている。2025年2月に業務提携を締結し、47都道府県・約2万台のタクシーが利用するシステムと連携。これにより宮古島、徳島市、新潟市などでもUberアプリから配車が可能になった。
自動運転がもたらす未来のモビリティ
講演の後半では、自動運転技術の進展とUberの取り組みについても言及。米国では既にWaymoなどの自動運転車両とのパートナーシップを結び、テキサス州オースティンやアトランタで自動運転による配車サービスを開始している。
「自動運転だけが全ての問題を解決するわけではありません。人と自動が混在していくのが現実的です」と永妻氏。地域によって、時間帯によって、そしてニーズに応じて人とロボットが共存しながらモビリティ体験を提供していくことが重要だとしている。
自動運転が日本にもたらすインパクトとして、労働力不足への対応、交通安全の向上、経済生産性の向上の3点を挙げた。
「日本は非常に観光資源に恵まれた、海外からもぜひ行ってみたい、来たいと思われている国です。これから重要になってくるのが『来たい国』かつ『移動しやすい国』になることです」と永妻氏は講演をまとめた。
移動の課題解決こそが、インバウンド観光の発展に不可欠だという。テクノロジーとパートナーシップの力を活かし、観光客や地域住民の移動をサポートすることで、良い循環を生み出す存在になることが目標だと述べた。
ウーバージャパンの永妻氏が講演した
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】