
元谷氏
インバウンドコンサルティングのmovは8月5日、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025-まだ見ぬポテンシャルへ‐」を東京都内で開いた。3つのホールを使い、17のセッションを開催。アパグループ社長兼CEOの元谷一志氏が「アパグループのインバウンド戦略」と題して講演した。
人口減少社会でインバウンドは日本経済の牽引役に
元谷氏は冒頭、アパグループの概要について説明。1971年に創業し、現在は1,000ホテル、約13万9,000室のネットワークを展開。国内ホテルネットワークとしては業界トップの規模だという。2027年3月末までに15万室という目標を掲げている。
日本の人口減少に触れ、「2070年には日本の人口は9,000万人を割り込み、65歳以上の高齢化率は38.7%と推定される。宿泊需要の減退だけでなく、働き手不足など様々な問題が生じることが想定される」と指摘した。
そうした中でインバウンド需要の重要性について、「インバウンドは日本経済の牽引役だ。宿泊業にとっては1日あたりの人口が増えたのと同じ効果がある」と強調した。訪日外国人観光客は2024年には3,687万人と過去最高を記録。2025年は関西万博もあり「4,000万人を突破し、楽観的な見方をすれば4,200万人まで伸びるのではないか」と見通しを示した。
都心集中と北米戦略でブランド力強化
アパグループのインバウンド戦略については、「SUMMIT5(頂上戦略)」と称し、日本の中心である東京都心3区(千代田区・港区・中央区)に集中出店する戦略を展開していると説明した。
元谷氏は「山高ければ裾野が広がる」という考えのもと、「東京都心3区に集中して出店することで引いては東京全体のブランドになる。東京のブランドというのは日本全体のブランドになり得る」と語った。2010年当時、東京都心3区では2ホテル416室だったが、現在は38ホテル8,260室まで拡大した。
また2016年には北米のホテルチェーン「Coast Hotels」を取得。「アジアではなく北米へ展開することで、欧米でチェーン展開していることによる国内ブランドの向上を図る」と説明。カナダとアメリカで現在49ホテル5,168室を展開している。
客室の高機能化でインバウンド満足度向上
インバウンド客の取り込みに向けた具体的な取り組みとして、「1ホテル1イノベーション」を掲げ、新規開業ごとに新しいサービスや仕様を導入していることを紹介した。
「両手が伸ばせるところにスイッチ類をまとめて、『おやすみスイッチ』で部屋の電気を一括でON/OFF可能にした」という工夫や、全世界のコンセントタイプに対応した「ユニバーサルコンセント」の配置など、インバウンド客の利便性を高める設備の導入を進めている。
「客室空調リモコンの9か国語対応や、公式予約サイトから客室内の設備に至るまで、顧客体験の隅々まで多言語対応を進めている」と説明。これにより「案内対応の減少によるスタッフの負担軽減と顧客満足度の上昇をかなえた一石二鳥のイノベーション」を実現したという。
また、コンパクトながら空間を有効活用したオリジナルベッド「Cloud fit Grand」の導入や、キャスターの耐荷重を80kg向上させた客室チェアなど、大柄なインバウンド客にも対応できる設備改良も行っている。
固定客化に向けてネットワークを活用
インバウンド客の動向について、「東京・大阪・京都といった主要観光地のインバウンド訪問比率は、1回目に比べリピーターのほうが低い傾向にある。一方で、北海道・宮城・広島・福岡といった地方中核都市を有する道・県は、1回目3.2%→リピーター5.9%と比率が約1.8倍に上昇している」と分析した。
この傾向を踏まえ、「東京⇔大阪間を結ぶインバウンドの『ゴールデンルート』はもちろん、それ以外の地方中核都市を中心に訪れるリピーター客も含め、全国的なアパホテルネットワーク展開を活かしインバウンドの囲い込みを行う」と述べた。
元谷氏は最後に「安倍政権のときに2030年の訪日客数6,000万人という目標があり、それに向けてJNTOの数字は年々増えている。さらには査証の緩和などの施策を打つことによって6,000万人に限りなく近くなってくる」と述べ、「人口減社会において市場に抗う形で需要を喪失していく日本経済全体を牽引する業界になり得る」とインバウンド観光の重要性を強調した。
アパグループ社長兼CEOの元谷一志氏が講演した
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】