「ブランド戦略の本質はラブローカル」 ホテルグリーンコアの「HUBするホテル2025」でスイデンテラスの中弥生総支配人が講演 


 ホテルグリーンコア(埼玉県幸手市、金子祐子社長)は8月7日、「ホテルとホテルをつなぐ『HUBするホテル2025』Vol.4」を茨城県坂東市のホテルグリーンコア坂東で開催した。全国ホテル・旅館の総支配人とスタッフ、大学教授、宿泊業界関連企業社長ら約40人が参加した。テーマは「ブランディングは予約ボタンが押される前から始まっている」。ゲストスピーカーとして登壇した株式会社LOCAL RESORTS COOの中弥生氏が、自身が総支配人を務める山形県鶴岡市のホテル「スイデンテラス」を事例に、地方におけるブランド戦略の実践と課題について講演した。

 

「自分たちが何者か」を明確にし、継続する重要性

 中氏はパークハイアット東京、リッツカールトン大阪、銀座グランドホテル、三井ガーデンホテル銀座プレミア、ホテル ザ セレスティン銀座などでの経験を経て、2019年に独立。現在は山形県の「スイデンテラス」と愛媛県の「砥部オーベルジュリゾート」の2つのホテルの運営を担当している。「どちらのホテルも『周りに何もない』場所にあります。そういう場所こそ、マーケティング戦略よりもブランディング戦略が重要です」と語った。

 特に注目したいのは、山形県鶴岡市にある「スイデンテラス」の運営。2018年に開業し、水田に囲まれた119室の特徴的なホテルだ。「本来、周りに何もないホテルは集客に苦労するはずですが、水田という景観の美しさを活かしたコンセプトホテルとして打ち出すことで、年間6万人ものお客様に来ていただけるようになりました」と中氏は説明した。

 

3つの幸せの循環が健全なホテル経営の基本

 中氏は、ホテル運営における「3つの幸せの循環」の重要性を強調した。「顧客満足・従業員満足・オーナー満足(利益)の3つが上手く循環していることが、健全な状態です。どれか一つでも欠けると不健康な状態に陥ります」と指摘。

 スイデンテラスに関わった初期には売上が目標に達していない状況だったため、まず収益改善に着手した。「稼げていない状況では、オーナーが蛇口を閉めてコストセービングに走ります。それが従業員のモチベーションにも影響し、結果的に顧客満足も下がる。まずは売上を上げることから始めました」と語った。

 

4年間の改革の軌跡

 中氏がスイデンテラスで実践してきた4年間の取り組みについても紹介した。

 「1年目は売上にこだわりました。自社ホームページの整備や旅行会社との契約見直し、OTAへの露出増加などの基本的な改善です。2年目は品質にこだわり、サービスとレストランの運営を大きく変えました。お客様の期待値に応えるメニュー開発と提供方法の改善が中心でした」

 3年目は利益と品質の両立を目指し、人件費の見直しや組織改革を実施。「4年目にようやく『行動』にこだわれるようになりました。これは一人ひとりのスタッフの振る舞いや言葉遣いといった、ブランドの本質的な部分です」と話した。

 

「サスティナブルチャレンジ」で具体的な行動指針を明確化

 スイデンテラスでは「サスティナブルチャレンジ」と名付けた行動指針を策定し、5つの項目を掲げている。「訪れる人を幸せにする」「山形庄内の食に責任を持つ」「山形庄内の魅力を発信し続ける」「人と環境に優しいモノ・コトを選択する」「山形庄内で暮らす私たちが幸せになる」の5つだ。

 中氏は「ブランディングは言葉だけでなく、具体的なオペレーションに落とし込むことが重要です。例えば『自然体で温かい対応』というスタンダードだけを徹底し、スタッフの方言も含めて自然体を大切にしています」と説明した。

 また、「悪い情報が一番最初に報告される組織であること」「雑談は最も大切な時間」といった組織づくりの工夫も紹介。「顧客に愛されるホテルを作るためには、まず従業員同士の信頼関係が必要です」と話した。

 

「やらないことを決める会議」

 実践的な取り組みとして注目を集めたのが「やらないことを決める会議」だ。中氏は「売上や利益が安定してくると、『やりたい、やろう』が多くなります。しかし、やることが増えすぎると本来の使命感が薄くなる。そこで月に1回、何をやめるかを決める会議を設けています」と説明した。

 また、地域との関わりについても「地域の居酒屋や飲食店に通い、地元の人々と交流することが重要」と強調。「私は縁もゆかりもない庄内でしたが、ホテルオーナーから年間120日以上滞在して外に出るよう言われました。最初は躊躇しましたが、地域の人々と交流するうち、自然と地域を好きになりました」と振り返った。

 

ブランディングの本質は「愛」

 講演の締めくくりとして、中氏は「ブランディングの本質は『愛』ではないかと思います」と語った。「地域への愛、ホテルへの愛、一緒に働く人への愛——これがないと何も始まらないし、いいものも作り上げられないし、結果的に続きません」。

 最後に「高付加価値ホテルとは、ただ値段が高いだけではなく、その地域の風土や食、文化を大切にし、お客様に感動体験を提供するものです。そのためには、一貫した価値を届け続けることと、オペレーションに落とし込むことが重要です」と強調した。

 中氏の講演後は、参加者からの質問が多数寄せられ、ブランディング戦略についての活発な意見交換が行われた。ホテルグリーンコアの金子社長は「今回の講演は、地方でホテルを経営する私たちにとって大きな示唆となりました。自分たちのホテルのブランド価値を再確認し、高めていく契機としたいと思います」と述べた。

講演する中氏(左)とホテルグリーンコアの金子社長(右)

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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