【VOICE】観光産業が今、必要としているもの 宝塚医療大学 観光学部観光学科准教授 神田達哉氏


神田氏

越境と対話が生み出す 観光の未来

 私はこれまで、旅行業実務・観光産業シンクタンク・高等教育という3領域で「越境」を重ねてきました。異なる現場や立場のもと、それぞれの課題に真正面から向き合い、顧客や業界関係者との「対話」や異質な価値観の融合を通じて、社会課題を現実的な施策として形にしてきました。観光産業が今本当に必要としているのは、こうした領域横断の経験たる越境と、深い対話から生まれる総合力だと痛感しています。

 デジタル社会の進展を背景とするDX推進によって、サービスや推進する事業の「自動化」が進む一方で、宿泊業の現場を動かす本質的な力は「人」にあります。システム導入や省力化だけで経営が安定する時代ではありません。

 人材不足や教育投資の負担、従業員の高い離職率、働き手の多様性といった現場の難題こそ、境界を越境して経営者自身がサービスの現場や顧客、地域社会と対話し、未来をともに模索する機会です。加えて、現場の声を直接聞き取る姿勢が、持続可能な組織作りにも結び付くと考えます。

 例えば、人材育成では異業種交流や地域連携を積極的に取り入れることです。また、単線的なOJTを多様な学びに発展させることも重要です。DXは業務効率化だけでなく、スタッフ同士、顧客との新たな対話や接点の創出にも生かす。その具体的戦略の構想と実践が問われています。

 宿泊施設の経営は、単に稼働率や顧客評価の数字を上げればいいものではありません。地域住民と訪問客が交差し、双方にこの土地この宿でなければ得られない価値を生み出す越境型の体験設計にこそ、これからの競争力があります。

 現場でスタッフが一歩踏み出して地域事業者や自治体、観光コンテンツの運営者と対話し、商品や企画をともに開発する。顧客アンケートを超えて、リピーターやファンとの小さな対話の場を積極的に増やし、宿泊体験の知見を現場全体で共有する。その積み重ねが、未曽有の変化の時代でも負けない現場力となり得ます。

 旅行業や行政にも同じく、分野や立場を越境し、自らの現場と外の世界を対話で編み直す挑戦が必要です。そこに宿泊業経営者自身が主体的に関わることで、現場には新しい知恵と働く喜び、地域には厚みが、顧客には新鮮な期待感が生まれるはずです。

 テクノロジーや制度変革の波に適応しながらも、越境と対話という人間らしい営みを経営の中核に据えること。まずは、現場での対話の場を一つ増やすことに、これからの宿泊業が持続的に選ばれ、成長し続ける本質的なヒントがあると考えます。


神田氏

 
 
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