【口福のおすそわけ 564】深川めし 竹内美樹


 農林水産省が選定した「農山漁村の郷土料理百選」で、東京都の郷土料理として選ばれた「深川丼」。実は昭和14(1939)年、宮内庁の全国郷土料理調査において、「日本五大名飯」の一つに選定されていた。かつてはアサリをみそで煮て汁ごとご飯にかける「ぶっかけ」タイプを「深川丼」、炊き込みタイプを「深川めし」と呼んだようだが、今は明確な区別はない。

 その発祥は名前が示す通り、江東区の深川かいわい。江戸時代は深川浦と呼ばれ、潮が引けば砂が露出する砂州が広がり、アサリやハマグリ、アオヤギなどの貝類が豊富に取れたという。そんな深川の漁師たちが、仕事の合間に食べていたのが、深川めしのルーツ。彼らは船上で、海水を真水で薄めて沸かし、アサリ、ネギ、豆腐を煮た澄まし汁を冷や飯にかけて食べていたのだ。その後みそ仕立てやしょうゆ仕立てに進化し、屋台や一膳飯屋で提供されるようになったという。

 江戸時代、天秤棒で商品を担いで売り歩いた行商人が「俸手振(ぼてふり)」。アサリやハマグリを殻から外した「むきみ」を売る「むきみ売り」が、その代表格であったことから、むきみは家庭で頻繁に使われていたと分かり、その炊き込みご飯が生まれたのも江戸時代と考えられている。こちらは、大工など職人が弁当として持ち歩くのにも便利だ。

 だが、一時期深川からアサリが消える事態に。東京湾の埋め立てが進み、工場排水で水質が悪化、ついに昭和37(1962)年、漁業組合が漁業権を放棄、漁師がいなくなってしまったのだ。

 深川めしが表舞台に戻って来たのは、バブル時代。好景気の後押しで下町ブームが起き、昭和61(1986)年に深川江戸資料館が開館すると、観光スポットとして人気を博した。せっかくなら地元の名物で町おこしをと、深川めしを売り出すことに。先陣を切ったのは、資料館前に店を構える「深川宿」。昭和62(1987)年、深川めし専門店としてオープンした。ぶっかけの「深川めし」(2145円)と炊き込みの「浜松風」(2145円)、双方楽しめる「辰巳好み」(2365円)がある。

 すぐ近くの「福佐家」は、店主が納得のいくアサリが入荷した時のみ営業するため、なかなか食べられないとのうわさが。メニューは「あさり丼」(1500円)一択。ぶっかけだが、みそでなく、元そば屋だけあって「返し」ベースのしょうゆ味。たまたま通りかかった時営業中で、幸運にもいただけた。

 深川資料館通りの反対側には、「深川釜匠」が。アサリとシメジの炊き込み「深川めし」(1490円)、アサリとネギ、油揚げのぶっかけ「深川丼ぶり」(1690円)があり、どちらもアサリの多さにビックリ!

 筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社でも、深川めし入りのお弁当を販売中。茶飯でなく、自社でアサリを炊き込んだご飯に、さらにアサリを載せているのがウリ。お家で簡単に召し上がれる、レトルトの深川めしの素も、神田明神の土産物店で扱っていただいている。ぜひお試しあれ♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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