
「夏休みの予約ペースが昨年の7割未満にとどまっている」「値引きしなければ予約が入らない」。2025年6月以降、宿泊単価の相場が崩れ、価格競争が激化している。その結果、想定していた収益の確保が難しくなり、単なる値下げや販促強化では対応に限界が見られるようになってきた。
宿泊施設の業績が予算を下回ると、多くの経営者は真っ先に宿泊部門の稼働率や客室単価に着目する傾向がある。しかし実際には、宴会・婚礼・レストランといった付帯事業の収益悪化が全体業績に及ぼす影響も小さくない。宿泊単価が下落傾向にある現在のような局面では付帯事業の赤字が施設全体の収益を圧迫する要因となる。宿泊・宴会・婚礼・レストランなどの各部門をひとくくりにし「全体的に売り上げが落ちている」と判断するのではなく、事業別に数値を分解し、原因を特定する視点が欠かせない。
そのためには、まず各部門のKPI(重要業績指標)を明確にすることから始めたい。たとえば一般宴会であれば、組数・1組あたりの人数・単価・総取引額などが基礎指標となる。婚礼では、見学会来場数・成約率・披露宴単価などがポイントだ。レストランであれば、喫食率・時間帯別の客数・料理単価・席回転率といったデータを把握すべきである。これらの数値を、最低でもコロナ前の2019年度を含めた過去7年分について月別で比較すれば、どの指標に異変が生じているのかが浮かび上がってくる。
例えば、宴会部門において、施行組数や単価は維持されているにもかかわらず、1組あたりの人数が減少しているのであれば、団体の組織率低下や構成変化などが影響している可能性がある。婚礼部門で成約率が低下している場合は、顧客の認知手段の変化、営業対応の質の低下、あるいはプラン内容の陳腐化などが原因と考えられる。レストラン部門では、メニュー構成や提供スピード、客席の快適性、さらには口コミの影響といった要素が売り上げに直結する。
外部要因の影響も見過ごしてはならない。地元企業の業績悪化やイベントの中止、競合施設の出店といった地域環境の変化が各部門の集客・売り上げに影響を及ぼすケースも多い。売り上げ減少を一律に景気悪化のせいと片付けず、それぞれの事業分野で実際に何が起きているのかを冷静に分析する姿勢が求められる。
部門間の相互作用にも注目したい。たとえば婚礼件数が減れば、婚礼宿泊や2次会利用なども減少し、結果として宿泊部門や料飲部門の売り上げにも波及する。一部門の不調が他部門に影響し、施設全体の業績を押し下げるという「負の連鎖」が起こるリスクは常にある。
こうした全体構造を正しく把握した上で、各部門に最適な対応策を講じることが、本質的な改善につながる。宿泊単価の上昇が期待しにくい今、付帯事業の再点検と再活性化こそが、施設全体の収益改善のカギを握っている。
(アルファコンサルティング代表取締役)