【VOICE】地球温暖化時代の持続可能な観光 じゃらんリサーチセンター 主席研究員 森戸香奈子氏 


森戸氏

「人」と「食」で地域をブランド化 
今あるもので、信頼関係を築く

 気候変動は確実な未来だ。産業革命前から+1・5度未満に温度上昇を抑えるという目標は達成できない見込みであり、温室効果ガス排出量を減らす「緩和」から、気候変動影響による被害を回避・軽減させる「適応」というフェーズに入っているという。観光業界にとって自然環境の変化は深刻な問題であり、実際、多くの地域でいわゆる「名物」(特に魚介)が取れなくなっているという声を聞く。

 観光において食のブランドは非常に強く、食材が取れなくなるのは致命的だ。とはいえ、祈っているだけでは何も解決しない。われわれは、「食材は変化する」ことをまず受け入れ、その上で具体的な方法を考えていかなければならない。

 地域の魅力を生かすため、「地域で取れる新鮮な食材」を活用したブランディングは多い。一方で「地域で取れる新鮮な食材」というのは、実はその多くが多品種少ロットである。良い食材を売ろうとすればするほど、流通の壁にぶち当たる。特定のブランド食材を求めてやってくる観光客に応えようとすると、キャパシティの問題からその需要に応えられないことも多い。

 わかりやすく品質を証明するのがブランドだが、取れるものに頼るだけの商売は持続的ではない。地域の人間が編集することこそがブランドになるような仕組みを作っていかなければならない。その一つの例がメニューとしてのブランドだ。

 じゃらんリサーチセンターが取り組んだ「うずの幸グルメ」は、鳴門海峡で取れる新鮮な食材を活用したグルメであり、食材を特定したものではない。滋賀県の「びわ湖魚グルメ」も同様に、まさに多品種少量である琵琶湖の魚を、「湖魚」というブランドでメニュー化している。

 人もブランドになり得る。なじみや行きつけの店は、その店主の魅力によるところが大きいのではないだろうか。その店なら間違いなくおいしいものを食べることができる、これは店のブランディングである。もっと広義に展開すれば、この地域ならおいしいものが食べられる、これこそが地域の目指すブランディングなのではないだろうか。

 観光客も、ここで一番、今おいしいものが食べたいという気持ちで訪れてくれたら、それが地域にとっても、旅行者にとっても、サステナブルな観光になる。そのためには地域と観光客、お互いの信頼関係が必要だ。今あるものを見極め、できることをやる。顧客との信頼関係をしっかり築く。温暖化時代の観光には、地域の能動性が求められている。


森戸氏

 
 
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