
国内外にさまざまな重要課題が山積する中で7月20日に参議院議員通常選挙が行われる。現在の日本では中央の政界・財界・官界・学界・マスコミ界に期待できないために、日本の各地域における民産官学の協働によって貴重な地域資源・伝統文化を持続可能なかたちで活用する賢明な運動に期待するしか仕方がない。
私は2005年に発足した「日本で最も美しい村連合」の動きを長年にわたって注視し続けている。当時、地方分権の推進と行財政基盤の強化を目的にして政府主導で「平成の大合併(1999~2010年)」が推進されていた中で発足した運動体だ。平成の大合併によって市町村数は約3200から約1700へと大幅に減少し、素晴らしい地域資源や美しい景観を有する小さな町村の健全な存続がより困難になる中で結成された運動体であった。
フランスでは1982年から、過疎化で消滅の危機にさらされた小さな村を対象にして自然資源や伝統文化に富み、歴史遺産や景観の保護に力を入れている地域を「フランスの最も美しい村」と認定し、それらが連合して農村観光を促進する運動が展開されてきた。
日本では05年に「フランスの最も美しい村連合」に範をとり、失ったら二度と取り戻せない日本の農山漁村の景観・文化を守りつつ、新しい時代に即した地域産業や観光事業の振興を図るために「日本で最も美しい村連合」が結成された。北海道の美瑛町の呼びかけに応じ、赤井川村(北海道)、大蔵村(山形)、白川村(岐阜)、大鹿村(長野)、上勝町(徳島)、南小国町(熊本)が参加を表明し、七つの個性的な町村の連合でスタートした。
その後、この連合は新規加盟審査と5年ごとの再審査を繰り返し、その結果として現在57の町村が加盟している。自らの地域に誇りを持ち、将来にわたって美しい地域づくりを行い、地域の活性化と自立を住民自らが推進することを基本原則にしている。生活の営みによって形成されてきた景観・環境や伝統文化を守り、それらの持続可能な活用によって観光的価値を高め、地域資源の保護と地域経済の発展に寄与することが意図されている。
連合加盟の町村は連携・交流の強化を図って、ブランド価値を高めるためのさまざまな活動を展開している。村まつり、スタンプラリー、美しい村を食べる、レシピコンテスト、商品開発研修会、村づくりフォーラム、オンライン大学、U35未来創造会議などを行っている。長年培われた世襲財産を継承しつつ、次世代の若者たちが自分の地域で働き暮らし続けられていくことで、将来にわたって若者たちのための雇用の場が創出され、地域経済の発展を後押しすることが不可欠だ。
12年には日仏伊カナダ・ベルギーなどの関係団体の連携で「世界で最も美しい村連合」が設立され、健全な存続の危機を抱える小さな町村が世界的に協力し合うことで、自然と人間の営みが長い歳月をかけてつくりあげた美しい村を未来にのこしていくための尽力が為されている。観光政策・観光産業の関係者はそれぞれの近くの美しい村を訪れて、「観光は稼ぐためだけの方便ではない」ことを再認識すべきであろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)