
地方のお宿を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。特に人材確保の問題は、多くの経営者が直面する深刻な課題となっており、接客係の高齢化や若手の定着率の低さは、業界全体の構造的な問題として浮上しています。
多くのお宿では、40代後半から70代の女性スタッフが接客の中核を担っています。彼女たちは長年の経験に基づく独自のサービススタイルを持ち、一定のファンもついているという強みがある一方で、年齢とともに体調不良により業務上の支障が生じたり、我が強いため、スタッフ間における人間関係のトラブルも多発しています。
一方若手スタッフの採用は困難を極め、せっかく入社しても長続きしないという悪循環が続いています。寮や福利厚生の整備不足も、人材確保の障害となっているのが現実です。
このようななか短期的対策として、既存リソースを最大限活用することに取り組みましょう。
まずは高齢スタッフが、できる限り長く働き続けられる環境づくりが急務です。フルタイム勤務にこだわらず、週3日勤務や半日勤務など、個人の体調や生活スタイルに合わせた多様な働き方を導入しましょう。これにより、経験豊富なスタッフの知識とスキルを最大限活用できます。
力仕事や立ち仕事の軽減、適切な休憩時間の確保など、身体的負担を軽減する工夫も重要です。年齢に応じた役割分担を明確にし、それぞれの強みを生かせるポジションに配置することで、スタッフのモチベーション向上にもつながります。
女将が半年から1年に1回程度は個々のスタッフと面談することで、プライベートと仕事のバランスを調整することを試みてはいかがでしょうか。
またスタッフ間の衝突を減らすためには、定期的な意見交換の場を設けることが効果的です。月1回の短時間ミーティングや、気軽に意見を出し合える環境づくりを通じて、問題の早期発見と解決を図りましょう。
お客さまからの感謝の声や、フィードバックを積極的にスタッフに共有することで、仕事への誇りとやりがいを再認識してもらうことも大切です。
次に中期的視点での対策について、重要な事項を取りまとめてみます。まず高齢のスタッフは、いずれリタイアします。次の世代はこれら高齢の世代とは働き方に対する価値観が全く違うと考えましょう。だから今までのように次の世代が宿に何とか集まってくることは期待薄です。
だから宿自体が若い人にとって魅力的な職場である必要があります。つまりあなたのお宿では「どのような働き方ができるか」を明確にしていかなければなりません。プライベートと仕事のバランスがとりやすい環境の整備。新しいプランの創造やSNSでの情報発信の業務等を、若手スタッフがチームで取り組める体制作り。明確な評価制度を作成し、活躍が給与に反映されること。寮や社宅、家賃補助等住居面のサポート。スキルアップやキャリア形成のサポート等について、中期経営計画に段階的に実現させるよう取り組んでみましょう。
最も重要なのは、経営者自身の意識改革です。重要なのは「利益を生まない従業員の福利厚生」という発想から脱却することです。スタッフは単なるコストではなく、旅館の価値を創造する重要な資産として捉え直す必要があります。
短期的な利益追求だけでなく、持続可能な経営を実現するための長期的視点を持ち、スタッフとともに旅館の未来を築いていく姿勢が求められています。
失敗の法則その64
接客係の高齢化が進むことを、目の当たりにしているにもかかわらず、何も手を打っていない。
その結果、高齢のスタッフがリタイアしても、新しい人材が入ってこない。
そこで、短期的対策と中期的対策の2本立てでこの課題に立ち向かおう。
https://www.ryokan-clinic.com