温泉文化大使インタビュー 「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会会長(多摩美術大学理事長) 青柳 正規氏


「温泉文化」のユネスコ登録早期実現へ

 「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産早期登録へ―。観光・宿泊業界がその実現へ機運醸成の取り組みを進めている。日本からの登録は件数が多いことから隔年とされ、「温泉文化」の登録は最速で2028年。同年の登録を目指す国内の候補は複数あり、今年中にも政府による正式な候補がその中から決定する予定だ。観光・宿泊業界で組織する「『温泉文化』ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会」は取り組みの一環で業界関係者や著名人を「温泉文化大使」に任命し、これら一連の活動への協力を求めている。ここでは大使3氏に「温泉文化」の魅力と、そのユネスコ無形文化遺産登録に向けたそれぞれの思いを語ってもらった。

若者に「良さ」知る機会を

――自身が思う「温泉文化」について。

 温泉は癒やしの空間。心身ともに日常生活から解放される。

 温泉に行った途端、そこに泊まる人はみんな同じ装い、浴衣になる。立派な背広を着ている人も、カジュアルな服装の人も区別がなくなり、みんなゆったりとお湯につかり、気分もほぐれていく。そういう状態を生み出してくれるものが温泉文化なのではないか。

 地元の海の幸や山の幸が食卓に並び、日常では食べられないものもある。それも温泉文化の一つだ。

 ――今までに行かれた温泉地は。

 学生の頃は山岳部。山から下りると湯船しかないような浴場があり(笑い)、そこによく入った。宿泊は、若い頃は自治体が持っている保養所のようなところが多かったが、60歳を過ぎた頃から温泉旅館に泊まるようになった。最近は石川県立美術館に仕事で通っているから、北陸の温泉宿にもよく行く。2カ月か3カ月に1回、ありがたく泊まらせてもらっている。それぞれの温泉地にいいお宿があって、皆さん努力しているのを肌で感じている。

利用者の裾野広げる努力が必要

 ――温泉文化を次世代に継承する上での課題について。

 私が温泉の良さを分かり始めたのは中年を過ぎてからだ。もっと早く知っていれば良かったと思うので、ほかの人にはなるべく早く、若い頃から温泉に親しんでもらえるようにすべきだ。

 例えば年に1回ぐらい「若者の温泉の日」のようなものを作り、その日は、若者には値段を少し安くするなどして、利用者の裾野を広げる努力も業界側には必要なのではないか。

 温泉文化は一度経験すると、「こんなに良いものなのか」と思うものだ。しかし若い人は行かないから良さを知らない。「食わず嫌い」のようなところがある。温泉地が工夫をして、若者を誘致すること。これは、将来の顧客をつかむことにもつながる。

 温泉文化を担う旅館は人手不足というが、宿の仕事にとどまらず、広く地域おこしの仕事に関われるようにすれば、もっと若い人たちに仕事として選んでもらえるのではないか。

 ――温泉文化を今後どのように世界に発信するか。

 日本の温泉文化を海外の人に分かりやすく説明するのは難しい。

 しかし国内で国際会議などが終わった後、海外の方と一緒に温泉に行くと、ほぼ100%の人が「こんなに素晴らしいところがあるのか」と言って、また来たいと旅館の名前やメールアドレスを書き留めていく。

 海外に向けて温泉文化の良さを伝えると同時に、日本に来られた旅行者に、その文化を実際に体験してもらう機会を増やすことが必要だ。そうすれば口コミで「日本の温泉は良いものだ」と広く伝わるだろう。日本で国際会議などを開催する際には、各主催者はエクスカーションで温泉に行くことを心掛けるといい。

 ――大使として、温泉文化のユネスコ無形文化遺産への登録に向けて、業界内外に呼び掛けたいことは。

 現在、登録に向けての署名活動を行い、100万筆を集めることを目指している。早期の達成を目指しているところで、まずはその活動に多くの方からの協力を頂きたい。

 国内旅行の多くが温泉を目的にしているといわれるほど、日本では温泉文化が広まっているが、その良さを認識していない人もいる。一連の運動を通じて、温泉文化の素晴らしさを多くの人に認識してもらいたい。

 温泉に関わる人には、日本独自のこの文化を継承してくれていることに感謝したい。難しい状況もあるだろうが、工夫をしながら同業者間で情報交換し、新たな取り組みを共有してほしい。従来のものを守るだけでは時代からずれてしまうので、時代の変化に即したサービスを取り入れながら素晴らしい温泉文化の継承を図っていただきたい。

 現代人は忙しく、せっかく良い温泉に行っても日帰りだったり、良いところの一部しか楽しめなかったりする。温泉文化の本当の良さは、1泊や2泊して、日常生活を忘れてのんびりと、周りの自然を楽しみながらお風呂にゆっくりとつかることで感じることができる。

 働く人がリフレッシュ休暇を取る際に、温泉券のようなものを付けるなど、人々が日本古来の温泉文化に親しむ機会が増えるような取り組みがあればいい。

【聞き手・森田淳】

青柳正規氏 Ⓒ多摩美術大学
青柳正規氏 Ⓒ多摩美術大学

 
 
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