【ちょっとよろしいですか 161】温泉文化を考えるその1 温泉を活用し、意識的にお客さんに伝える 山崎まゆみ 


 関東で梅雨明け宣言がされた日、栃木県塩原温泉「湯守田中屋」に向かいました。

 3年前に塩原バイパスが開通して、「湯守田中屋」の環境は一変しました。目の前の道が旧道となったことで、大型車の通行規制がなされ、一般車の交通量も減りました。よって、静かになっただけでなく、山腹の樹林が茂りやすくなったのか、これまで以上に緑がこんもりとしています。箒川の水音と共に、涼やかなこと。避暑地として抜群です。

 私が初めて「湯守田中屋」を訪問したのは20年以上前。320段の階段を降りてたどり着く、箒川沿いに点在する野天風呂の撮影でした。野趣あふれるように圧倒されました。

 現在は、専務である田中佑治さんのご活躍が目覚ましい。 

 コロナまん延中の2020年、佑治さんのアイデアによる湯量豊富な3本の自家源泉を地域の住民に届ける「源泉デリバリー」が好評を博し、塩原温泉をはじめ、那須温泉、板室温泉、鬼怒川温泉など栃木県内の七つの温泉地でも源泉を運ぶサービスへと発展していきました。

 コロナゆえ、温泉地の皆さんが活動を控える中で、その積極性は光っていました。何より移動が制限された時期に、温泉が体験できたことは、高齢者に喜ばれたでしょう。

 22年には、天然温泉を粉末にして、“のめる”“たべれる”“はいれる”「るるる温泉」を開発し、オンラインで販売。チェックインした客室でもお茶がわりに出しており、仲居さんから説明がありました。もちろん、保健所から飲泉許可を得ているからこそですが、「温泉を粉末にする」という発想には驚きました。

 新設された会員制のラウンジバーでは、源泉を冷やし、炭酸水として提供する試みもされていました。

 少しずつ館内をバリアフリーに改修し、20年にはユニバーサルデザインの客室を新設。全面ガラス張りで、渓流を見下ろせます。ここまで見晴らしのいいバリアフリーのお風呂はなかなかありません。身体の不自由な方にとって、どれほどうれしいことか。

 渓流沿いの野天風呂も幾多の水難に遭いながらも健在です。

 また「湯守田中屋」さんには、今を時めくクリエイターが応援団にいます。佑治さんのお考えから、質の高いワインが多数そろっており、ワインのお好きな方々が集う場所にもなっています。

 温泉業界、宿泊業界の皆さんが懸命に取り組む「『温泉文化』をユネスコ無形文化遺産登録へ」という運動は、残念ながら、まだ一般の方にまで届いていないようです。

 この動きを伝えるベストの場所は宿です。温泉や宿が好きで訪れている方に、「温泉文化」を理解してもらうことから全ては始まるのではないでしょうか。

 そのためには、「湯守田中屋」のように、源泉を商品化などで有効に使い、館内で「温泉文化」を感じるシーンを多数設けること。並びに、素晴らしい入浴環境を整えることが有効でしょう。

 最も大切なのは、皆さんが考える「温泉文化」を言語化し、説明を宿に掲示することです。

 「温泉文化」を早期28年にユネスコ登録を願う者として、私の希望を言えば、館内の至る所に「温泉文化をユネスコ登録へ」というステッカーを掲示し、お客さまにしっかり伝えてほしい。もし「湯守田中屋」にそんな掲示があれば、クリエイターたちも協力してくれるでしょうし、それは力強いブースターになるはずです。

    (温泉エッセイスト)

 
 
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