【口福のおすそわけ563】東京の讃岐うどん~後編~ 竹内美樹


 前号で、讃岐うどんには「ひやあつ」「あつひや」「ひやひや」「あつあつ」といった食べ方があると述べたが、コレは麺とだしの温度を意味する。先にうどんの命、麺の温度、次にだしの温度の順だ。うどんはゆで上がると水で洗って表面のぬめりを取り、冷水でしっかり締める。温かい麺はその後もう一度湯通しする。締めた冷たい麺に熱いだしをかけたのが「ひやあつ」、熱い麺に冷たいだしをかけたのが「あつひや」。どちらもぬるくなるだけでは?と思うが、全く違う。「ひやあつ」は麺が締めてあるから、コシがあって伸びにくく、だしの香りが立つ。「あつひや」は、後述の釜上げ麺を使用する場合もあり、讃岐では人気だとか。
 
 セルフうどんの店には、客自身が湯通しできる、熱いお湯が入った鍋と「テボ」と呼ばれるザルが置いてある。麺の玉を入れるので、玉を弾に見立てて「鉄砲ザル」と名付けられたのが略されたものらしい。
 
 ちなみに「釜上げ」とは、ゆで上がった麺を、そのままゆで汁とともに器に移し、つけだしで食すスタイル。一度冷水で締めてから熱いお湯の入った容器に移し、つけだしで食すのは「湯だめ」だ。コレも似ているが、前者は締めていないので、表面がにゅるんと軟らかく、モチモチかつふんわり食感。後者は締めているから麺の表面がツルっとして、しっかりとコシがある。
 
 そんな讃岐うどん、東京でそこまでのクオリティは難しいと思いきや、本場の味が楽しめる店があった。ミシュランのビブグルマンにも選出されている、東京中央区人形町の「谷や」だ。香川県高松市出身の店主谷和幸氏は「うどん馬鹿」を自称するほどのうどん好きで、17歳ごろから讃岐うどんの名店「もり家」でバイトを始め、大学を中退し同店に就職、8年の修業を経て独立したという。
 
 こだわりは「打ちたて」「切りたて」「湯がきたて」の「三たて」。毎朝夜明け前からうどん作りを始め、生地を踏んでは寝かす作業を6~7時間繰り返すという。だしもいりこや昆布、割り節などをぜいたくに使い、毎日4時間以上かけて丁寧に作っているそうだ。
 
 筆者が注文したのは「海鮮天うどん」つけ冷、並(1玉)1450円。並、中(1・5玉)、大(2玉)は同価格で、特大のみ+150円という太っ腹! 愛媛県指定無形文化財「砥部焼」の器で運ばれてきたのは、白くピカピカに光る美しいうどんの上に、その半分が隠れるほどのった大ぶりの天ぷらたち♪ 冷たいつけ汁につけたうどんを口に運べば、ちゅるっちゅるのモチモチ、コシがあるってこういうことだよね! 揚げたての大えび天は、衣サクサクでえびが甘ウマ♪ ホタテ天はジューシー! キス天はふんわりほろほろ崩れそうに軟らかく、イカ天も塩でイケるくらいの実力があった。
 
 店頭の打ち場で、リズミカルにうどんを切り続ける店主が、キリの良いところで帰る客に会釈をする気配りも、口福な1杯をよりおいしくしているに違いない。また行こうっと♪
 
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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