
近年、バーチャルな旅の体験が利用行動に与える影響に注目が集まっている。1980年代後半にDavisが提唱したTAM(Technology Acceptance Model)は、利用者が新しい情報技術をどのように受容するかを説明する理論モデルである。
TAMは「知覚された有用性(Perceived Usefulness)」と「知覚された使いやすさ(Perceived Ease of Use)」という二つの構成要素から成り立ち、それらが利用意図に影響し、最終的な利用行動に結びつくとされる。
たとえば、スマートフォンでホテル予約からチェックインまで完結するアプリに対し、「時間の節約になる」といった有用性や、「簡単に操作できる」といった使いやすさを感じることで、再利用の意図が高まる。
このTAMは観光における情報技術の受容分析に有効であるが、VR観光のようなバーチャルな旅の体験においては、TAMの2要素だけでは不十分である。なぜなら、バーチャル体験では「知覚された楽しさ(Perceived Enjoyment)」といった内発的な動機づけ(報酬などの外発的な動機づけではなく「楽しさ」や「興味」から自発的に行動する動機づけ)が重要になるからである。
2010年代にはLowryらがこの点に着目し、TAMを拡張したHMSAM(Hedonic Motivation System Adoption Model)を提唱した。
HMSAMは、楽しさ、好奇心、没入感、フロー、自己効力感などを重視し、利用者が娯楽的な目的で自発的に技術を利用する際の行動を説明するモデルである。これはVR観光やエンターテイメント性の高い観光アプリなどに適用されている。
つまり、バーチャルな旅の体験においては、「楽しさ」や「没入感」といった内発的な動機づけが重要であり、その受容過程を的確に捉えるためには、TAMに加えて、HMSAMの視点を取り入れることが不可欠である。
(高崎経済大学地域政策学部観光政策学科准教授 花井友美)