
1990年代以降、欧米諸国を中心に、インターネットやVR技術を活用したバーチャルな旅への関心が高まるとともに、観光分野・エンターテインメント分野・ICT分野を中心に、さまざまな研究が進められてきた。
これまでの研究を概観すると、バーチャルな旅は、観光地のプロモーションやブランドイメージの形成、ディスティネーションの選択意思決定に一定の影響を与える一方で、視聴覚映像のクオリティやヘッドマウントディスプレイの操作性、真正性の欠如などの課題が指摘されており、現実の旅の代替ではなく、あくまで補助的な位置づけにとどまるという見解が多く見られる。
一方で、バーチャルな旅は、オーバーツーリズムの緩和や観光による自然環境への負荷軽減といった観点から、新たな観光のあり方として注目されている。物理的な移動を伴うことなく観光地の魅力を体験できることから、観光振興と自然保護という、しばしば相反するニーズの両立を可能にする手段として期待されている。
また、身体的な制約や高齢化、経済的・地理的要因、あるいは子育て中などライフスタイル上の制約によって実際の旅行が困難な人々にとっても、バーチャルな旅は観光の楽しみや癒やしを享受する手段となり得る。
このように、バーチャルな旅は、観光のアクセシビリティを高め、より多様な人々に開かれた新たな観光体験の可能性を拡張するものとして、近年ますます注目されつつある。
現在開催中の大阪・関西万博では、会場に足を運べない人々の参加を実現するユニバーサルツーリズムの一環として、「LET’S EXPO」プロジェクトが実施されている。このプロジェクトでは、会場内でのサポートに加え、自宅や介護施設から楽しめる「バーチャル万博~空飛ぶ夢洲~」の提供や、パビリオン内部を紹介するオンラインツアー「旅介TV」の配信が行われている。旅介TVを提供する東京トラベルパートナーズの栗原氏によれば、参加者はオンラインツアーを通じて過去の万博の記憶を呼び起こす「回顧体験」を体感しているという。こうした取り組みは、すべての人に開かれた万博の実現に貢献している。
(高崎経済大学地域政策学部観光政策学科准教授 花井友美)