【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全62】属人的な宿運営からの脱却 孫田 猛


 お宿の運営がスムーズに回っていくためには、「可視化」「共有化」「標準化」がキーポイントになります。つまり業務上の「見えないところ」「分からないところ」「ばらばらなところ」をピックアップして、そこのよどみを解消することです。
 
 ところがこの取り組みをしようとすると、そこに立ちはばかるのは「属人的な運営」という壁です。
 
 中小規模の旅館経営において、長年培われた「その人だからできる」「あの人しかできない」という属人的な業務運営は、宿の個性や品質を支える重要な要素に見えます。しかし、持続可能な経営を考える上で、この属人化は将来的な大きなリスクがあります。
 
 属人化の最大の問題は、「現在は問題なく運営できている」という状況が、将来のリスクを見えにくくしてしまうことです。調理場の料理長が体調を崩したり、フロント業務のベテランスタッフが退職した際に、業務が回らなくなる事態は決して珍しいことではありません。
 
 属人的な業務は、その人の経験や感覚に依存するため、品質にバラつきが生じやすく、新人教育に時間がかかります。また、問題が発生した際の原因究明や改善策の検討が困難になることも多く、結果として経営者の負担が増大します。このことを経営者に説明すると、理解はできるが今は回っている。だから問題ないという結論になってしまうことがほとんどです。だから問題が起きてからあわてて対処しようとするということになってしまいます。
 
 経営者に必要なことは、現状を見ることと同時に、将来のリスクも敏感に感じ、今からその準備を開始することです。ここはとても重要なことです。経営者のセンスだと思います。センスのいい経営者は、属人的運営からの脱却に取り組んでいます。
 
 属人化の解消を進める際に最も重要なのは、現場スタッフに「自分たちの仕事が否定されている」と感じさせないことです。長年積み重ねてきた技術や経験を「貴重な資産」として認識し、それを組織全体で活用できる形に発展させるという視点で取り組むことが重要です。
 
 この視点が抜けたまま、いきなり「可視化」「共有化」「標準化」へ取り組もうとすると、現場から猛反発が出ます。現場スタッフの気持ちを無視した取り組みは、取り返しがつきません。余談ですが、これはやる気満々のコンサルタントがよくやってしまうことです。
 
 また、前述したように経営者自身も「現状維持バイアス」を持ちがちです。「今うまくいっているのになぜ変える必要があるのか」という疑問に対しては、具体的な将来シナリオを示し、変革の必要性を理解してもらうことが不可欠です。
 
 そこでまず、属人的な業務を洗い出し、その価値を正当に評価することから始めます。「なぜその人でなければできないのか」「どのような技術や判断基準が必要なのか」を詳細に分析し、スタッフ本人にも協力してもらいながら、暗黙知を形式知化していきます。
 
 全面的な標準化を一度に進めるのではなく、比較的取り組みやすい業務から着手するといいでしょう。例えば、朝食準備の手順や清掃作業のチェックリスト作成など、定型的で反復性の高い業務を選んで標準化を進めます。これにより、「標準化することで業務が楽になる」という実感を現場に持ってもらいます。
 
 属人的な業務を標準化するためには、まずその業務内容を詳細に可視化する必要があります。業務フローチャートの作成、作業手順の動画撮影、判断基準の文書化など、さまざまな手法を組み合わせて、暗黙知を明文化していきましょう。

失敗の法則その61
 属人的な運営にメスを入れることなく続ける。
 その結果、突然キーパーソンが機能しないという事態が発生し、現場が回らなくなる。
 そこで、属人的運営からの脱却に取り組み、組織改革を実現しよう。

https://www.ryokan-clinic.com

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒