【地域創生と観光ビジネス80】下呂温泉「水明館」瀧社長「団体復活に向けてオール岐阜で」 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 圧巻の講演内容だった。今年、創立20周年を迎えるNPO法人交流・暮らしネットの視察研修旅行で、下呂温泉「水明館」の瀧康洋社長を訪ね、これまでの実践的な取り組み事例や今後の展望などをテーマに講演をいただいた。

 その瀧氏が会長を務める下呂温泉観光協会は、わが国の先駆的DMOの成功モデルとして広く知られる。人口わずか2万8千人の街に、年間のべ100万人もの宿泊客が訪れる下呂温泉。太古の昔から、群馬・草津や兵庫・有馬と並び日本三名泉の一つに称され、多くの客人をいざなう。本紙「にっぽんの温泉100選」では直近の5年連続で上位3位に入る人気ぶりだ。まろやかな化粧水に浸かっているかのような泉質で、美人の湯と呼ばれている。

 講演は予定の終了時刻をとうに過ぎても熱量を増し、その内容と迫力に私たちは舌を巻いた。当地で進む観光DX。下呂温泉がエリア全体で宿泊統計を取り始めたのは2010年からだそう。それぞれの宿が手の内を明かすことで、互いの発展をめざした。

 月次で数字を読み解くと観光客の足取りがよく分かる。下呂に限らず、コロナ禍明けに一気に進んだ個人客へのシフト。数字は如実に物語っていた。

 風光明媚な温泉街は、まち歩きにもちょうどよい規模感で起伏に富む。商工会を中心に推し進めたグルメサイト「ゲログル」や「素肌美人スイーツ」など、事業者たちと知恵を絞って開発して奏功した。

 個人客が増加したことから、宿泊単価は著しく上昇した。それは下呂に限ったことではないだろう。だが一方で、客室稼働率は3割も落ちていたのである。インバウンドの団体客が対前年比216%増(24年)という驚異的な数字をはじきながらも、稼働は落ちていた。

 それはなぜか。国内団体利用がコロナ禍前の水準まで回復していないのである。数にして約2万人も減少したままだった。今後、成長軌道に乗せるためには「団体客を回復させることが急務」と、瀧氏は声を大にした。それも下呂単独ではなく、オール岐阜で取り組むことを目標に掲げた。「団体客と個人客とがバランスよく来訪してこそ真の地域活性化になる」(同氏)という。

 修学旅行をはじめとする団体客の仕込みは、実際の誘致・誘客まで時間もかかる。プロモーション計画を早期に立てて、運輸事業者とも連携をはかり、狙いをさだめてセールスを展開する。

 また、個人客に対しても動向調査が欠かせない。花火やキャンドルイルミネーションなどイベントも数値化して費用対効果を検証している。産業連関表で全体の見える化をはかり、持続可能な観光をエリア全体で構築しようとしているのだ。

 そして、これらPDCAサイクルを回すことで、データ取得の意義を確認して価値最大化をはかり、トヨタ生産方式を取り入れてカイゼン成果を共有するなど、観光経営の一歩先をいっていた。

 炎天下のなか日傘をさして、まち歩きに興じてみた。温泉神社を参拝して美濃焼の店を訪ね、温泉寺の帰りには下呂プリンを食べてゆったり涼んだ。幸福で懐かしいおもいに包まれた。

 (淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)

 
 
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