じゃらんリサーチセンター、「観光振興セミナー2025 関東・甲信越Meeting」を開催


セミナーの様子

セミナーの様子

 リクルートのじゃらんリサーチセンター(JRC、沢登次彦センター長)は7月29日、「観光振興セミナー2025 関東・甲信越Meeting」を東京都内の本社で開いた。7月末から9月1日までの間、全国で計9回開催するセミナーの第1回目。自治体関係者などが多数参加した。JRCの研究員らによる国内・訪日観光の最新トレンドがプレゼンテーションされたほか、後半には「人材不足・人材育成」「観光DX」「宿泊税・観光財源」など業界を取り巻く諸課題の解決へのヒントが共有された。

研究員らが最新の国内・訪日観光トレンドを解説

 冒頭、同社旅行Division Vice President の大野雅矢氏があいさつ。需要回復が進む国内観光について、「新たな戦略が求められる局面にある今、地域のこれからを見据えた視点や戦略がより一層重要になってきている」と述べ、開催の意義を強調した。

 続いて、後援団体として観光庁の河田敦弥総務課長(前観光戦略課長)が登壇。7月の参議院選挙で争点となった外国人政策に言及し、現行の観光政策は政治情勢や政権に関係なく一貫して進行していく方針を示した。「観光業を基幹産業に、というのがわれわれの目指すべきところ。地域の皆さまは、(観光庁が推進するインバウンドの)地方誘客の力になっている」と述べ、引き続きの協力を呼び掛けた。

 セミナーの第1部では、JRCの研究員らによるプレゼンテーションが行われた。同センター長の沢登氏が、観光業を取り巻く2040年の未来予測を解説したほか、主席研究員の森戸香奈子氏は、「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2025」から読み解く国内旅行の最新トレンドを報告。インバウンド関連を専門とする研究員の松本百加里氏も登壇し、代表的な国・地域の旅行者がどのような周遊ルートをたどっているか、地図を使って説明した。

セミナーの様子
セミナーの様子

観光業界の課題について議論

 第2部「地域戦略推進のためのQ&Aセッション」では、「気候変動・環境保全」「人材不足・人材育成」「観光DX」「宿泊税・観光財源」「地域・住民との連携」の五つのキーワードについて自治体関係者から事前に寄せられた質問に対し、JRC研究員らが回答。第1部で登壇した3氏に加え、リクルート旅行Division地域創造部の高橋祐司部長が登壇した。

■気候変動・環境保全
 国内外で気候変動の影響が顕著な地域・観光地の事例が共有されたほか、環境保全と観光振興の両立に向けて、観光事業者が主体的に取り組んでいる好事例が紹介された。

 松本氏は、地域が持つ「旬の価値の再定義」を提案。気候変動などで採れなくなった食材から「今取れる新しいもの」へのシフト、降雪が少なくなった地域で夏季需要を獲得する取り組みなど、新たな観光資源を活用する考えを共有した。沢登氏も、ハイシーズン以外でも楽しめる観光の選択肢を用意し、観光客とコミュニケーションをとれる体制を構築することが重要だと強調した。

■人手不足・人材育成
 観光人材の確保・育成や、若年層のモチベーション維持、観光産業での「働きがい」や「成長実感」の設計方法について、高橋氏が宿泊施設の事例を用いて解説した。

 高橋氏は、業務を細分化・可視化し、従業員のスキルの数を数値化した上で、そのスキル数を基本給に反映させる考えを共有。無駄な業務も洗い出した上で排除することも必要だとした。

 沢登氏は、まず着手できることとしてテレワークなど働き方に柔軟性を持たせることや、同僚との良好な関係性構築が離職予防に必要だと強調。城崎温泉全体で行われている合同入社式や合同研修の事例を紹介した。

 加えて、努力を評価する制度づくりやキャリアパスをしっかり用意することも重要と指摘。観光業だけでなく、別の業界でも通じるスキルの習得機会を用意するなど、「観光業で働く意味」を伝えなければならないとした。

 高橋氏も、多くのDMOなどで現場スタッフの交流場所が少ない現状について言及し、「地域内部活動などを創設すると面白いかもしれない」と私見を述べた。

■観光DX
 業務効率化やDX導入における成功事例や、導入後の効果測定・PDCA設計のヒントが共有された。

 松本氏は、生成AIの活用でインバウンド対応を効率化した静岡県熱海市の事例を紹介した。観光DXにはデータの整備が必須で、それらを扱える専門人材がいることが求められると解説。人でやれること、AIでやれることの仕分けをすることを提案した。データの蓄積に加え、地域の事業者間で共有できる仕組みも重要になるとし、「なぜそのデータを集めるのか」というゴール設定を組織全体で持つことも肝要だとした。

 高橋氏も、「地域の皆さんの肌感覚が大事。自分の中で思っていることを、まずは認識・共有すること。仮設を立てた上で、必要なデータをそろえることが重要だ」とし、特に人事異動が頻繁に行われる自治体関係者は、担当者が変わっても継続して分析できるよう、組織内で認識を共有しておくことが重要だと賛同した。
 
■宿泊税・観光財源
 宿泊税などを導入した自治体で、使い道の工夫や住民への説明に成功している事例を紹介。持続可能な観光地経営のための観光財源の確保・配分手法も解説した。
 
 沢登氏は、宿泊税の最終目的を「もっと旅行者に来てもらうこと」と整理。「宿泊税は投資に近いもの」との認識を示し、住民や周辺事業者などに対して、宿泊税を導入する意図を説明する必要性を訴えた。高橋氏も賛同し、宿泊税の用途が「見える化」されている地域に人が集まっていくと持論を展開した。
 
 松本氏は、米国・カリフォルニアや欧州などで行われている、宿泊税の用途を観光客にプロモーションする取り組みを紹介した。
 
 髙橋氏は、宿泊税以外の観光財源の確保について、ふるさと納税や国の補助金の活用を紹介。特に補助金活用については、しっかり中長期的な視点を持つことが重要だとした。
 
■地域・住民との連携
 広域連携や住民連携で有効だった仕組みやプロセス設計、連携を持続的に行っていくためのポイントを松本氏が解説した。

 松本氏は、広域連携での効果を可視化することの重要性を強調。日本政府観光局(JNTO)ロンドン事務所と静岡県が実施したInstagramの連携発信プロジェクトでは、県のアカウントへのリーチ数が約5倍となった事例を紹介した。
 
 地域内での住民連携について高橋氏は、地域の魅力を住民に知ってもらう必要性を強調。京都市の住民が半年に1回以上市内を旅行する割合は、約半数という実態を報告した。

 「観光は、市民が最大のリピーターだ。地域の魅力を知ってもらうことが大事で、そのためには少しでも(自分たちの)地域に行ってもらうこと」と高橋氏。京都市観光協会主催の市民限定で行っている誘客キャンペーン「LINK!LINK!LINK!」や、東京スカイツリー入場券の区民割引などを紹介した。

「地域戦略推進のためのQ&Aセッション」の様子
「地域戦略推進のためのQ&Aセッション」の様子

地域Meetingは全国8地域で開催

今後の地域Meetingの開催スケジュールは以下の通り。

8月5日(火)「東海Meeting」 @名古屋観光ホテル
8月6日(水)「関西・北陸Meeting」 @ウェスティンホテル大阪
8月19日(火)「沖縄Meeting」 @ロワジールホテル那覇
8月21日(木)「北海道Meeting」 ※オンライン開催
8月22日(金)「東北Meeting」 @ホテルメトロポリタン仙台
8月26日(火)「中国・四国Meeting」 @リーガロイヤルホテル広島
8月27日(水)「九州Meeting」 @ホテル日航福岡
9月1日(月)「関東・甲信越Meeting」 @グラントウキョウサウスタワー

 
 
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