宿泊税対応システムに課題山積、PMS各社が意見交換


意見交換会の様子

 一般社団法人宿泊施設関連協会は7月29日、宿泊税制度に対応したシステムの導入・運用に関する意見交換会を東京都千代田区の同協会事務局で開催した。USEN-ALMEX、ナバック、バリューコマース(旧ダイナテック)、ユーコム、ネットシスジャパン、タップの6社が参加し、宿泊税対応の課題と解決策について議論を交わした。制度の複雑さと標準化の欠如がシステム開発の効率性を阻害する実態が浮き彫りになった。

地域ごとに異なる制度設計が開発効率を低下

 意見交換会では、自治体ごとに異なる宿泊税の制度設計が開発の非効率を生み出していることが指摘された。ある参加企業は「宿泊税の制度変更に伴うシステム開発は補助金で費用が賄われるとしても、制度決定から施行までの期間が不透明であることが大きな負担となっている」と述べた。

 また別の企業からは「導入時期や税制の詳細が未確定なまま、宿泊施設からの問い合わせ対応や交渉に追われることはベンダーにとって生産性の低い業務となっている」との声が上がった。

 現在、宿泊税は東京都や大阪府、京都市など9つの自治体で導入されているが、その課税方式は地域によって大きく異なる。東京都は宿泊料金に応じて100円または200円、大阪府は100円から300円の3段階、京都市は200円から1,000円の3段階となっており、北海道虻田郡倶知安町のように宿泊料金の2%という税率制を採用している地域もある。

情報収集の非効率性と曖昧な制度設計が負担に

 PMS(Property Management System)各社は、宿泊税に関する情報収集の非効率性を共通の課題として挙げた。ある企業は「PMS ベンダーが総務省やニュース、Google検索などを駆使して、各自治体の導入状況や詳細な税制情報を個別に収集している現状は、極めて無駄が多い」と指摘した。

 また「各自治体から発行される手引き書がフォーマットや記載内容でバラバラであるため、情報が標準化されておらずシステムへの落とし込みが困難だ」という声も。これに関連して「行政の手引き書に『など』といった不明確な表現が多く、PMS開発側で判断に迷うケースが頻発している」との意見も出された。

 特に課税対象の曖昧さについては「休憩時間と宿泊の区別など、行政の手引き書に『など』といった不明確な表現が多く、PMS開発側で判断に迷うケースが頻発している」と具体的な困難さが報告された。

二重課税や計算ロジックの複雑さも問題に

 意見交換会では、市と県で二重課税される地域での課題も議論された。ある企業は「市と県で二重に課税される地域では、課税の順番によって計算ロジックが変動したり、他の税(入湯税など)との兼ね合いで免除が発生したりと制度がますます複雑化している」と説明した。

 実際の事例として「市と県の税務課に問い合わせても、それぞれが相手任せで明確な回答が得られない状況だった」との報告もあり、同じ県内でも自治体によって解釈が異なるため、システム開発や宿泊施設側の運用が混乱している実態が明らかになった。

宿泊施設側の現場負担も深刻

 宿泊税徴収に伴う宿泊施設側の負担も大きな議題となった。かつてホテルで勤務経験のある企業担当者は「宿泊料金が税込表示で宿泊税が税抜きで計算される点、そしてカード決済やパッケージプランで徴収方法が異なる点が大きな課題だった」と振り返った。

 現場での運用上の問題として「OTA(オンライン旅行会社)で事前決済した顧客への対応が特に困難。宿泊税が現地徴収の場合、『なぜ追加で200円払うのか』と顧客から反発があり、フロントスタッフの大きな負担となっている」との声も。

 また「宿泊税の現地払いや、売掛・エージェント請求といった徴収方法の複雑さは、フロントスタッフの大きな負担になっている。特に、顧客に『なぜ追加徴収が必要なのか』と説明する手間や、それによるクレーム対応は、従業員のモチベーション低下や離職の一因にもなり得る」と現場の実態が語られた。

小規模宿泊施設での徴収課題も

 PMSを導入していない小規模宿泊施設の課題も取り上げられた。ある企業は「PMSを導入していない小規模な民宿など、多数の宿泊施設からの宿泊税徴収の正確性が大きな課題だ」と指摘。

 具体例として「ある県の離島に50軒の民宿がある例では、PMSがないため徴収状況の把握が困難で、事実上『適当』な申告になっている可能性もある」との懸念が示された。

 さらに「OTAを多用している施設も多く、サイトコントローラーからしか情報を確認できないため、正確な納税額を算出できない現状がある」と小規模施設特有の問題点が挙げられた。

補助金頼みのシステム改修に持続性の懸念

 宿泊税対応システムの導入には補助金が活用されているが、長期的な視点での課題も指摘された。「宿泊税システムを導入する際、初回は補助金で賄えても2回目以降のバージョンアップや維持費用が大きな課題だ」という声が上がった。

 また「補助金は一過性だが、PMSによる税徴収コストの削減効果は継続的だ。PMSのおかげで税務課の徴収コストが減っていることを考えると、その削減分をサブスクリプション費用としてプールし、PMSメーカーやホテルに還元する仕組みが必要だ」という提案もあった。

 システム導入の将来的な課題として「現在、多くの施設は補助金があるためシステムカスタマイズを依頼しているが、PMSは定期的にリプレースが必要となるため、将来的に補助金が出ない場合、カスタマイズ費用が施設の直接的な負担となる可能性がある」との懸念も示された。

標準化されたガイドラインの必要性を強調

 こうした課題を解決するため、参加企業からは標準化されたガイドラインの必要性が強調された。ある企業は「宿泊税導入において、標準化された手引き書の必要性が強く認識されている。現状では各自治体が独自に制度設計を行うため、旅館・ホテル、PMSベンダー双方に大きな負担がかかっている」と訴えた。

 また「PMSベンダーとしては、当協会のような団体が宿泊団体と連携し、行政に対して標準化されたガイドラインを提案していくことが重要だ」との意見も出された。

 具体的なアプローチとして「PMSベンダーが『我々の標準仕様はこの範囲である』というガイドラインを事前に提示できれば、自治体の議会もそれをベースに議論を進めることができる」という提案や、「行政は、システム設計を意識した明確な説明文書や仕様書を作成し提供すべきだ」という要望も挙がった。

全国普及を見据えた協力体制の構築へ

 意見交換会のまとめとして、PMSベンダーが個別に自治体と交渉する現状から脱却し、共同で課題解決に取り組む体制の構築が提案された。「PMS協議会」のような組織を立ち上げ、共同で提案を行うことで行政からの認知度を高める必要性が確認された。

 また「宿泊税対応対策協議会」を発足させ、その後PMSの全般的な課題を扱う協議会へと発展させていくという段階的なアプローチも提案された。参加企業からは「現在、宿泊税を導入している都道府県・市町村は約13〜14程度だが、検討中の自治体を合わせると50以上に上るという情報もある」との見通しも示され、早急な対応の必要性が共有された。

意見交換会の様子

【kankokeizai.com編集長 江口英一】

 

 
 
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