【大阪・関西万博現地リポート】”空想”のスーパーマーケット「EARTH MART 持続可能な「食」を提案


 大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの一つ、放送作家・小山薫堂氏が手掛けた「EARTH MART」(アースマート)は、「食を通して、いのちを考える。」をテーマにした”空想”のスーパーマーケット。最先端の技術が集まる万博会場の中でも、フードテックにとどまらず、日本古来の食材にも目を向け、食文化、テクノロジー、食の課題に向き合いながら、持続可能な食の在り方を来場者と考える場を提供する。

 

昆布、みそ、こうじー。日本の食材を未来に発信

 館内は「いのちの売り場」と「みらいの売り場」の二つのエリアで構成され、いのちの売り場では、野菜や魚など300種、816カットの写真を瓶に閉じ込めて展示した「いのちの色」や、日本人が生涯口にする約2万8千個の卵を並べ、命と食のつながりを可視化した「一生分のたまご」などの作品を展示。目で楽しみ、体験しながら、食材の「いのち」を体感できる。

 みらいの売り場では、伝統や文化、最新テクノロジーを背景に、未来に残したい「食べ方」を提示。食材をマイナス196度で粉砕して長期保存可能なパウダーに変える「凍結粉砕パウダー」、そのパウダーを再成形した新たな主食「再生米」、調理の工程や味わいそのものをデータとして記録・再現する「録食」等、食の未来を切り開く先進的な技術を紹介している。

 中でも注目すべきは、日本の食文化の価値を再定義し、世界と共有することを目指す「EARTH FOODS」(アースフーズ)だ。取り組みの一環として、有識者による検討委員会が、栄養、環境への配慮、持続可能性などの観点から選んだ「EARTH FOODS 25」を提唱。高野豆腐、昆布、のり、しょうゆ、みそ、こうじなど、日本独自の伝統食材に光を当て、これらを用いたコンセプト料理を展示している。

 料理開発には国内外の著名な料理人5人が参加し、各自が5品目ずつ担当。宿泊施設から唯一参加した「里山十帖」(新潟・南魚沼市)の桑木野恵子料理長は、餅、さんしょう、かんぴょう、こんにゃく、漬物を用いて、新たな視点から持続可能な食を提案している。

 旅館でも親しまれてきた日本の食材が、持続可能な未来を築く鍵となる。アースマートは食の本質を見つめ直すきっかけを与えてくれる場といえるだろう。

EARTH FOODS 25に選出された食材を展示

野菜の漬物を使用した桑木野氏の作品「本物と偽物」
野菜の漬物を使用した桑木野氏の作品「本物と偽物」

食は「文化」、どう伝えるかが大事

 料理開発を担当した里山十帖の桑木野料理長に、開発背景や宿の料理長としての「食」の在り方などについて聞いた。

 ――料理開発において重視したことは。

 「まずはアースマートのテーマ『食を通して、いのちを考える』に立ち返り、『その食材の価値をどう伝えるか』を重視しました。普段は新潟のローカル食材を扱っていますが、今回は日本という大きな枠を意識し、世界への発信を見据えてメニューを構成しました」

 ――里山十帖の料理は「ローカル・ガストロノミー」を体現されています。食材選びや調理する上で心掛けていることは。

 「『自然に逆らわないこと』を大切にしています。今ある食材を使うという考え方で、例えば今は山菜の旬が終わり、夏野菜がまだ出ない端境の時期(取材当時)。そんな時こそ、長年貯蔵してきたみそやこうじなどの調味料と組み合わせることで料理の幅が広がります」

 「里山十帖は宿泊施設です。都会のレストランのよう華やかさだけでなく、温泉や宿泊など体験の延長線上に食がある。その土地の水や空気になじみ、風景の一部となるような料理を心掛けています」

 ――万博を契機に「日本の食材」を見直すことの意義について。

 「重ねてにはなりますが『どう伝えるか』がより重要だと考えます。日本人にはなじみのある名前の郷土料理でも、海外の人には伝わらないこともよくあります。今回の料理開発では、郷土料理の本質を発信できたことに非常に大きな手応えを感じました」

 ――料理人から見た、旅館に必要な視点とは。

 「昔ながらの旅館を好む人もいますし、変わらない良さもあると思います。ただ、海外の人は背景やストーリーに価値を見いだす傾向があり、時代や価値観の変化に応じた見せ方も求められます。旅館でもそうした視点を持つことで、付加価値が生まれると考えます」

 ――万博での経験をどう生かしていきたいですか。

 「私は『人が集まる場所に文化が生まれる』と考えています。旅をきっかけに人が訪れることで、地域の文化や価値が見直され、育まれていく。新潟から『日本らしさ』を改めて見つめ直し、世界に発信していきたいです」

 「食は文化の一部です。料理人だけでなく、例えば縄文学や天文学など異分野の専門家とも連携し、食を多面的に捉えていくことが重要です。日本、アジア、そして世界へとつながる視点を持ち、柔軟に多様性を受け入れながら発信していくことが今後ますます重要になると感じています」

桑木野氏
桑木野氏

くわきの・けいこ 埼玉県出身。インドなど世界各地を巡りアーユルヴェーダの哲学や食、ハーブ、スパイスについて学ぶ。18年から現職。20年「ミシュランガイド新潟2020特別版」で一つ星を獲得した。

【編集部・溝部あゆ美】

 
 
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