
6月20日、「第一ホテル東京シーフォート」が「ANAホリデイ・イン東京ベイ」として生まれ変わった。第一ホテル東京シーフォートは、JTBやJALの本社もある品川区の天王洲アイルで1992年7月から営業を続けてきたが、コロナ禍もあり、2023年2月28日に営業を終了した。新ホテルを経営するのは国内最大手のブライダル企業、ツカダ・グローバルホールディング(旧ベストブライダル)。同社の塚田社長に話を聞いた。
ブライダルのノウハウ活用「最高のおもてなし企業」へ
――ブライダル業界からホテル業界に進出されたきっかけは。
「大学卒業後、結婚式場の会社で27年間、ブライダル一筋でビジネスをやってきた。その後、独立。欧米風の邸宅を模した施設での結婚式スタイル『ゲストハウスウェディング』を日本のブライダル業界に初めて導入した。これが30年前になる。ホテル業界との関わりは2011年に『ホテルインターコンチネンタル東京ベイ』の経営に携わり、再生に成功してからだ。このホテルにはブライダルに最適な大きさの宴会場が六つあり、ウェディングとホテル業を両輪として進めてきた。現在では都内で結婚式の組数が最も多いホテルの一つに数えられている。その後、14年1月に東京・品川の『ストリングスホテル東京インターコンチネンタル』を買収。また16年1月に『ストリングスホテル名古屋』を開業。20年10月に『キンプトン新宿東京』を新規開業した。同12月には『カイマナビーチホテル(ハワイ・オワフ島)』の運営を開始した。24年11月から米・シアトルで『キンプトンパラディアンホテル』、25年5月30日から米・ダラスで『Wホテルダラスビクトリー』の運営も始めた」
――今後のホテル展開計画は。
「”ブライダル”という私たちの強みを生かせるブランドホテルを所有、運営していくつもりだ。インバウンド需要はますます高まっており、世界各国から日本の文化や歴史、おもてなしを体験したいという観光客が集まってきている。長年のブライダルビジネスで培ったノウハウとホスピタリティマインドをフル活用した”最高のおもてなし企業”を目指している」
――現在日本で展開しているグローバルブランドホテルの契約形態は。
「ホテルインターコンチネンタル東京ベイとANAホリデイ・イン東京ベイはFC(フランチャイズ)契約、ストリングスホテル東京インターコンチネンタルとキンプトン新宿東京はMC(マネジメントコントラクト)契約だ。今後はFC契約を増やしていく予定だ」
――外資グローバルブランドにこだわる理由は。
「特にインバウンド旅行客の宿泊を獲得しようとする場合、自社ブランドだけでは限界がある。世界中に予約網を持つ外資ブランドの方が集客しやすいのは事実だ。そのため私たちは特にIHG(インターコンチネンタルホテルズグループ)との関係を強化している。一方、ハワイのカイマナビーチホテル(旧・ニューオータニ・カイマナビーチホテル)については、ニューオータニから取得した後も外資ブランドに変えずに運営している」
――ANAホリデイ・イン東京ベイは昨年12月に物件を取得して半年間でリノベーションし、開業した。驚異的なスピードだ。
「デザインチームや資材調達チームなど、リノベーションに関わる機能のほとんどを自社で内製化している。通常、設計事務所やコンサルタントなど多くの業者を介するが私たちは中間業者を挟まずに直接フィリピンや中国の工場に発注している。長年築き上げてきたネットワークとノウハウが圧倒的なスピードとコスト競争力を生み出している」
――ブライダル事業で培ったノウハウはホテル事業にどのように生かされているのか。
「最近多くのホテルが婚礼部門を縮小したり、撤退してしまったりしているが、立派な宴会場(バンケット)を持て余しているのは非常にもったいない。そこには巨大な可能性がある。ホテルがブライダルから撤退する理由は、ブライダルという仕事が非常に難しいからだ。ホテルと宿泊客とのお付き合いは基本的に数日で完結するが、ブライダルでは結婚式を申し込まれてから当日まで約1年間、お客さまのお世話をする。この『数日』と『1年』の違いはとてつもなく大きい。長年の経験と高度なスキルを持つ人材を育てなければ、お客さまを満足させることはできない。私たちはその難しいサービスを長年突き詰めてきた。だからこそ、ホテルのポテンシャルを最大限に引き出すことができる」
塚田 正由記氏(つかだ・まさゆき)1968年に学習院大学を卒業し、日本閣観光に入社。95年ベストブライダル(現ツカダ・グローバルホールディング)設立、97年代表取締役社長就任。
塚田正由記氏
【聞き手・kankokeizai.com 編集長 江口英一】