
かやぶきと瓦が融合した「大和棟」の屋根が目をひく
奈良県宇陀市の「うだ薬湯の宿 やたきや」は、山林を背に八滝地区を見下ろす場所に建つ、母屋の居住まいが印象的な宿だ。美しく整えられたかやぶき屋根と瓦屋根が組み合わさった「大和棟」と呼ばれる屋根の造りは、南大阪や奈良などの豪農の屋敷などによく見られたものだという。
同市内で畳屋を営む田中太見夫さんが、築300年の旧庄屋屋敷を縁あって入手。リノベーションして3年前から「古民家オーベルジュ」を始めた。母屋や蔵に作った客室は、それぞれ異なる趣。香り良く、空気清浄効果の高い熊本・八代産のい草を使った畳、昔ながらの土壁などは心地良さや懐かしさを、年輪が美しい木のベッドなどは自然美や伝統技術の素晴らしさを感じさせる。「100年前には当たり前だった、『本物』に囲まれた暮らしを再現したいと考えた」と田中さん。
宇陀市は飛鳥時代、推古天皇らが薬狩りをしたとの記録が残り、今も日本最古の薬草園がある薬草の里。やたきやの夕食である地元産の野菜を使った創作イタリアンのコース料理では、奈良で長く栽培され生薬としても知られる「大和当帰」を、サラダや自家製コーラなどの形で味わえる。また、大和当帰などの薬草を組み合わせて、自分だけの入浴剤も作ることもできる。
アクティビティ「観天望気ツアー」では、ヘルスツーリズムを学んだスタッフと、周辺の里山や薬草園の散策、軽い運動を行い、心身を癒やすことが可能だ。
田中さんは宿から1キロほどの旧伊勢街道の復興にも取り組み、沿道の元駄菓子屋を活用して薬草の勉強会なども行う。「地元の人も薬草文化や街道の歴史を深くは知らない。自分が親から受け継いだ宇陀の暮らしや文化、歴史を次世代につなぎ、にぎわいを作りたい」と意欲を語った。
【4室、1泊2食税込み4万8千円から】
かやぶきと瓦が融合した「大和棟」の屋根が目をひく