
湯めぐり帖
日本各地に点在する温泉地は、長い年月をかけて人々の心と体を癒やしてきた。自然環境や泉質、歴史、地域文化といった多様な要素が織りなす温泉の魅力は、今もなお、進化を続けている。今回は、注目すべき話題の11温泉地のそれぞれの特色と旬の情報を紹介する。
七つの宿、七つの湯。秘湯で温泉三昧
乳頭温泉郷(秋田県仙北市)は、十和田・八幡平国立公園の乳頭山麓に位置する。ブナの森に七つの宿が点在し、それぞれ独自の源泉からさまざまな泉質の湯が湧き出ている。2024年度の「にっぽんの温泉100選」では全国19位、東北エリアで2位にランキングした。「選んだ理由別」では「雰囲気」で15位、「泉質」で14位。あこがれの秘湯として支持されている。
「孫六温泉」が再開
乳頭温泉郷の7軒は、鶴の湯、妙乃湯、黒湯温泉、蟹場温泉、孫六温泉、大釜温泉、休暇村乳頭温泉郷。「七つの宿、七つの湯」として、7軒が一体となり、長年にわたって誘客促進や地域づくり、ブランド化に取り組んでいる。
危機も地域一体で乗り越えた。22年、孫六温泉が後継者の不在や人材不足のため、事業の継続を断念するという事態に直面した。これに対し他の宿は、「乳頭温泉郷は七湯で一つ」「孫六温泉の灯を絶やすな」との思いで一致し、共同で出資する形で、孫六温泉の経営を地域で受け継いだ。
孫六温泉は、観光庁の補助事業「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」も活用して改装。25年4月にリニューアルオープンした。「山の薬湯」といわれる秘湯の魅力はそのままに、「孫六温泉―六庵―」としてプライベート感のある宿に生まれ変わった。湯浴み着着用で混浴露天風呂に入れるほか、乳頭温泉郷で唯一のバレルサウナがある。
「湯めぐり帖」販売
七湯それぞれの魅力を堪能してもらうため、乳頭温泉郷の宿泊客に限定して「湯めぐり帖」(大人2500円、こども千円)を各施設のフロントで販売している。販売から1年間の有効期間内であれば、7軒それぞれに1回入浴できる。
湯めぐり帖
加えて「湯めぐり帖」では、乳頭温泉郷内を循環しているシャトルバス「湯めぐり号」に乗車できる。また、日帰り入浴客にも販売している「湯めぐりマップ」(千円)は、入浴料は含まれていないが、販売日に限って「湯めぐり号」が1日乗り放題になる。
湯めぐり号
地域団体商標に登録
乳頭温泉郷の宿7軒は、23年7月に事業協同組合を設立した。従来の温泉組合という任意団体から、県知事の認可による「乳頭温泉郷協同組合」に態勢を一新し、ブランディング、旅行者の誘客・受け入れ、人材の確保などへの取り組みを強化している。
ブランディングの一環では、秋田県仙北市の「乳頭温泉郷」として、24年4月に地域団体商標への登録を実現した。乳頭温泉郷協同組合が発足直後の23年9月に出願し、特許庁から登録が認められた。地域ブランドの保護、競争力の強化、地域経済の活性化につなげていきたい考えだ。