
観光庁の村田長官
観光庁の村田茂樹長官が7月16日、就任後初めてとなる定例会見で抱負を語った。2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人およびその消費額15兆円の実現に向け、「第5次観光立国推進基本計画」の策定に引き続き取り組むと表明。このほか、「第2のふるさとづくり」やワーケーションの普及による地域活性化、休み方改革の普及促進や高齢者の旅行経験率向上による国内旅行需要の平準化などに対応していく考えを示した。
持続可能な観光地域づくり、地方誘客の促進に注力
村田長官は、2019年から22年の3年間のうち、19年から20年まで観光地域振興部長を、21年には観光庁次長を務めた。コロナ禍中については、「観光関連の業界や皆さまをどのように支援し、事業継続と雇用をどのようにお守りしていくかということに全力を注いだ。先行き不透明な状況が現在解消され、さまざまな前向きな取り組みができるようになっている。この観光を取り巻く現状、現在の環境というものは本当にうれしいし、ありがたいことだ」とコメント。
その上での今後の抱負として、「まずは2030年訪日客数6000万人、消費額15兆円という政府目標の達成に向け、ボトルネックや課題を把握し、来年3月の基本計画の改定などの重要課題にしっかりと取り組んでいきたい」と表明した。
村田長官は、3大都市圏以外の地方部における訪日外国人旅行者の1人当たり宿泊数を2泊とするといった現行基本計画の目標が未達であることに言及。こうした現状の課題を踏まえ、①持続可能な観光地域づくり②地方誘客の促進―の2点に注力すると強調した。
また、今年7月1日付で新設した旅行振興参事官についても紹介。今後のさらなる国内旅行の活性化と、アウトバウンドの需要促進、観光人材の確保・育成―といった政策課題に取り組む体制を強化するとした。初代旅行振興参事官には、根来恭子氏が就任している。
定例会見で抱負を述べる観光庁の村田長官
アゴダへの対応、国内旅行活性化の方針も説明
会見では、Agoda(アゴダ)による不正転売をめぐる観光庁の対応や、今後の国内旅行の需要平準化に向けた取り組み方針について、記者団から質問が出た。主な内容は次のとおり。
――秡川前長官からの引継ぎ事項は。
重要なものは大きく二つ。一つは、「第5次観光立国推進基本計画」の策定、二つ目は観光庁の働き方改革。これらを引き続きしっかり行う。
基本計画については、課題の整理を行った上で、地方誘客の促進や人手不足対策の取り組みなどを含め必要な取り組みの検討を深める。今年度末までの策定に向けてしっかりと取り組んでいきたい。
働き方改革については、秡川前長官のころから、休暇取得やテレワークの促進、職員間のコミュニケーション活性化などを積極的に進めていただいた。職場の上下左右の風通しを良くするといった取り組みを加速させるとともに、職員の声を聞きながら、私のモットーである「明るく楽しく仕事をする」を実現できるような職場づくりを実行していきたい。
――アゴダの転売事案について、観光庁の受け止めは。
観光庁としては、今年3月からアゴダに対してトラブルの改善を申し入れてきた。トラブルが生じている第三者サプライヤー経由の宿泊商品の販売停止を6月26日から講じ、今後はAIを活用した事前監視システムの導入や、第三者サプライヤーへの管理体制の強化等の対応を行うという旨を今月15日に会社として公表したものと承知しており、観光庁にもその報告があった。
観光庁としては、引き続きこの予約トラブルの発生状況や、アゴダが公表した改善策の進捗状況をこれからも確認を続けていくことにしており、必要に応じて適切な対応を行っていく。併せて一般消費者に対しても、旅行予約サイトを利用する際には利用規約や約款、あるいは問い合わせ先をあらかじめよく確認いただくということを、観光庁のホームページ上でも一層の注意喚起を行っている。
――国内旅行の活性化について。現在進めている「第2のふるさとづくり」の今後の取り組み方針は。
「何度も地域に通う旅」「帰る旅」、これらを定着させる「第二のふるさとづくり」や、ワーケーションの普及は、地域住民との交流を通じて来訪者の関係人口の増加につながる取り組みだ。
観光庁としては、これまで第2のふるさとづくりの推進に向け、令和6年度までに入り計36地域でモデル実証を実施してきた。ワーケーションの推進も、地域と企業のマッチング支援や、令和6年度までに78件のモデル事業の創出を実施してきた。
今年度は、これらの取り組みを「第2のふるさとづくりプロジェクト」として統合。地域とのつながりの創出に加え、地域への経済波及効果と事業の持続可能性が両立した先駆的なモデル事業の創出を実施している。第二のふるさとづくりやワーケーションの推進を通じて、関係人口の増加につなげ、新たな交流市場の拡大に向けた取り組みを進めていきたい。
――旅行需要の平準化に向けて現時点で認識している課題などは。
日本では、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆といった時期に旅行する方が多く、特定の時期に観光客が集中する実態がある。国内旅行の平準化については、休暇の取得促進と分散化を進めていくことが重要だ。
観光庁では、休暇を取得しやすい職場環境を整えて旅行を楽しむことを積極的に促進する企業を紹介する「ポジティブ・オフ運動」を行っており、現在2800を超える企業・団体から賛同いただいている。
旅行の平準化という意味では、平日での旅行が多く需要の平準化が見込まれる高齢者層の方々の国内宿泊旅行経験率がコロナ以降まだ回復していない。高齢者の方々が旅行しやすい環境を整備する、いわゆるユニバーサルツーリズムの促進も図っている。
村田 茂樹氏(むらた・しげき)1990年4月運輸省(現・国土交通省)入省。14年大臣官房参事官(航空予算担当)、19年観光庁観光地域振興部長、21年観光庁次長を歴任し、24年7月から現職。東大法卒、東京都出身。58歳。