【脱炭素でスマートな旅館 国際観光施設協会エコ・小委員会 53】 旅館が抱える三つの課題その2 ~建物の効率を上げる~


 旅館は客室レンタブル比が25~30%と宿泊タイプ別の中では低く、営業部門の延べ床面積に対する面積比率も50%に満たない。その上、大広間、クラブなどは利用頻度が低く、施設効率が悪いのが実状だ。営業に貢献していない部分もエネルギーを消費し、掃除などのメンテナンス、固定資産税が掛かる。客室レンタブル比40%、営業面積60%を目指したいが現状では簡単でない。

 しかし、設備投資がつきものの旅館は改修のたびに効率化を進めれば10年、20年もたてば達成できる。管理部門については、個別エアコンが進み、中央式空調の冷温水発生器、チラー、ポンプ類が不要になり機械室も小さくて済み、団体料理を盛り付ける配膳台も個人客になり、不要で厨房もコンパクト化がおすすめだ。事務所もフリーアドレスにするなど事務の効率を上げると小さくて済む。20%ほどある管理部門は縮小可能だ。

 共用部門については個人客になればロビーも小さくてすみ、利用頻度の少ないパブリックトイレは廃止して、便器の数も減らせばメンテナンスの負荷も減る。バック通路を短くすれば、労働生産性も向上し、客室廊下は可能であれば外部とする。30%ほどある共用部門も効率を考えて面積を減らしたい。稼働率が下がっている大広間や宴会場は景色が良ければ客室に転換し、客室レンタブル比を上げ、不用部分は減築し、空間に余裕も持たせることも考えたい。

 ビュッフェレストランに食事の提供を集中した東北の旅館が、今まで使っていた大広間や小宴会場の椅子テーブルに白い布を掛けて閉鎖していた。立派な宴会場だが、使わないと割り切っての判断で、生産性を向上するには思い切った取り組みが必要で、使わない部屋を不用品の倉庫にすることだけは止めたい。

 私が25年前に増築した旅館の施設構成表を示す。客室レンタブル比が22%、営業部門合計で46%、管理部門20%、共用部門33%となっている。他のタイプの宿泊施設と比べ効率の悪さが目立つ。観光庁の中小企業生産性向上事業でトヨタやキヤノンの生産性向上部門の指導を受けたが、生産性向上の目標は高く、工程一つ一つの無駄を省き、作業動線も10センチ単位で短縮するなどきめ細かな指導をしていた。製造業と同列でないが、宿泊施設も短い作業動線で施設効率が良く生産性の高い施設で利益を生む体質にしたい。お客さまが景色を眺めて長く歩くのは良いが、料理の運搬動線が無駄に長いのは止めたい。

 脱炭素社会で旅館が持続可能であるために建物の構成と機能を健全にして、生産性とエネルギー効率の良い建物にバージョンアップすることを考えよう。


(国際観光施設協会理事 エコ・小委員長、JIA登録建築家、佐々山建築設計 佐々山茂)

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒