【VOICE】共創するDMCの現場から DMC天童温泉 旅行事業部部長 鈴木 誠人氏 


鈴木氏

誇りと物語が心動かす

 「私は、経験を買ったんです」。これは、全身青色づくめがトレードマークの、私のツアーに参加してくださったゲストのひと言です。

 高校生の頃、学校を飛び出し1人で訪れた東南アジアで得た、「旅は投資」という価値観。あの旅がなければ今の自分はありません。 旅をきっかけに旅行会社への道を決め、20代半ばまでは国内外を飛び回っていましたが、26歳の時に山形とのご縁をいただき移住しました。

 転職先は、天童温泉の老舗旅館「ほほえみの宿滝の湯」。当時、全国的にDMOの設立が進む中、天童では機動力のある民間組織としてDMCの構想があり、私の転職から1年後に立ち上がりました。ライバルである旅館同士が、エリア全体の滞在価値向上のため「競争から共創」への一歩を踏み出したのです。

 このDMCの柱となるのが、天童温泉の宿泊者を増やすローカルツアーの企画販売です。私は企画、販売、ガイドを担い、「朝摘みさくらんぼ狩り」や「銀山温泉Twilight Trip」など、山形ならではのツアーを手がけています。後者は、過去に訪れた台北と九份、ハノイとハロン湾の関係に着想を得たもので、銀山温泉の宿がいっぱいでも天童に泊まれば銀山に行けるというツアーです。そこから地域間連携が生まれ、旅の価値向上やオーバーツーリズムへの対応が進んでいます。

 他にも、山形の県花「紅花」を題材にした三部作ツアーを展開。江戸時代の最盛期には米や金よりも価値があった紅花の、栽培と加工の過程や背景を身をもって体験し、当時の人たちの想いに触れるような体験型ツアーを実施しています。

 「経験を買った」という言葉はこのツアーでいただいたものです。旅は投資であり、自己変容を促すものだと考えている私にとって、この言葉はうれしい瞬間でした。最近ツアーゲストと話していると、モノ消費、コト消費からイミ消費へと志向が変化してきていると感じます。モノやコトの裏側の想いや背景、その体験が自分にとってどんな意味があるのかという観点です。 自身のこれまでの旅が仕事につながり、天童から始まった共創が他の地域との連携に広がる今、旅の価値を高め、意味を深掘りする企画を通じて、山形で”一生ものに出会う旅”を国内外の多くのゲストと分かち合っていきたいです。

 旅は人生観を変え、地域の未来にも影響を与える力があります。だからこそ、地域にいる人が誇りと物語を持って迎えることが、心を動かす旅につながります。その積み重ねが持続的に選ばれ、何度でも訪れたい地域になると信じて、私は今日も山形のどこかでゲストを案内していることでしょう。

鈴木氏

 
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