
九州周遊の「拠点」へ 地域と連携し価値創造
――ハウステンボスが目指す「長期滞在型リゾート」とは。
ハウステンボス(以下、HTB)の中だけで長く滞在していただくというよりは、HTBを「拠点」としながら、長崎県や佐賀県を中心とした魅力ある文化、自然を存分に楽しんでいただく。結果として、それが1週間程度の滞在になる、という形がわれわれの目指す姿だ。
このエリアは、まとまった規模の宿泊施設が限られている。HTBには、その中心となれる宿泊機能と、長年培ってきた質の高い接客を提供できる人材が豊富だ。われわれが周遊旅行をサポートする一大拠点となることが、私が考える「長期滞在型リゾート」の理想形だ。
――都市型テーマパークとの違いを、どう乗り越えるか。
ディズニーやUSJのような都市型テーマパークとは、決定的に周辺人口が異なる。今後、日本全体で人口減少が進む中、都市部のように近隣から何度もお越しいただくお客さまを増やすビジネスモデルとは違う。
だからこそ、われわれは発想を転換し、遠方からわざわざお越しいただき、長く滞在してくださるお客さまを増やすしかない。幸い、HTB周辺には、都市部にはない豊かな観光素材、長期滞在を促すポテンシャルが眠っている。HTB単独で走るのではなく、周辺地域のビジネスパートナーの皆さまと一体となって、このエリア全体の観光の魅力を底上げしていくことが不可欠だ。
――地域におけるHTBの役割とは。
HTBが位置するのは長崎県北部地域で、いわゆる長崎市内観光とは少し地理的な感覚が異なる。むしろ佐賀県の唐津や有田といった観光地へのアクセスが良い。
この県北エリアと周辺の島々、そして佐賀県西部が連携して地域を盛り上げていく際に、誰がリーダーシップを取るのか。行政区分が分かれているため、行政主導では複雑な調整が必要になる場面も少なくない。
HTBは、そのちょうど中心に位置し、民間企業の立場から具体的な戦略を立て、推進役を担えるポジションにいると考えている。地域のハブとなり、汗をかくことこそが、これからのHTBが果たすべき重要な役割だ。
――具体的なインバウンド戦略について。
正直なところ、(コロナ禍の影響もあり)これまでインバウンドへの本格的な取り組みは十分ではなかった。現在、ようやくスタートラインに立ったところ。まずは各国の旅行会社などビジネスパートナーに対し、HTBを組み込んだ旅行商品を造成してもらうための基礎情報を整備している。
その際、HTBだけの情報を発信しても意味がない。周辺地域の観光資源や文化といった、旅の動機となる「手前の情報」をセットで提供し、エリア全体の魅力を感じてもらうことが重要だ。
もう一つは、国や文化圏ごとに、九州、長崎、佐世保という土地がどう捉えられているかを深く理解すること。彼らの視点に立ち、それぞれに最適化されたブランド戦略が必要になる。例えば、フィリピン市場向けのプロモーションであれば、現地のデザイナーを起用し、彼らの感性に響くクリエイティブを制作するといった、きめ細やかなアプローチが成功の鍵を握ると考えている。
――直営ホテルの利用をどう促すか。
宿泊していただくことで、お客さまにどれだけのメリットがあるかを明確に伝えていく。例えば、直営ホテルにご宿泊いただくと、翌日のパーク入場料が実質無料になったり、開園1時間前から入場できる「アーリーパークイン」といった特典など。
これにより、午前中の早い時間にパークを満喫し、午後は佐世保市内や有田など、周辺観光地へ足を延ばすといった、時間を有効活用した新しい楽しみ方が可能になる。こうした利便性をしっかり訴求していきたい。
――SDGsや環境への取り組みについて。
HTBは、建設当初から非常に高度な環境インフラが整備されている。開業から30年以上が経過し、建物も古くなってきているが、安易な建て替えは考えていない。ヨーロッパの街並みがそうであるように、既存の資産を最大限に生かしながら、新しい魅力を加えていく。「とにかく壊さない」ことが、環境負荷を低減する上で最も重要だと考えている。
また、海に接し、豊かな緑に囲まれたHTBならではの取り組みとして、今後は生物多様性の保全にも貢献していきたい。HTBの敷地内で、自然な生態系の回復を促すような活動は、創業時の「自然との共生」というコンセプトにも通じるもの。その原点を大切に引き継ぎ、未来へつなげていきたいと考えている。
髙村 耕太郎氏(たかむら・こうたろう)兵庫県出身、1998年オリエンタルランド入社。21年6月執行役員経営戦略本部副本部長。23年10月ハウステンボス代表取締役社長就任。
(聞き手=九州支局長・後田大輔)
ハウステンボスの髙村社長