
「じゃらんアワード2024」の受賞者ら
旅行情報サービス「じゃらん」を運営するリクルートは6月30日、「じゃらんフォーラム2025東京」を東京都内で開催した。同社旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏が事業方針について説明したほか、じゃらんリサーチセンター(JRC)のセンター長・沢登次彦氏(とーりまかし編集長)と、主席研究員・森戸香奈子氏が登壇。2040年の国内旅行市場を見据えた新たな旅行トレンド予測や、将来世代の旅行動向について解説した。2024年の販売実績で優れた成績を収めた宿泊施設や、地域の良さを生かした魅力的な取り組みを表彰する「じゃらんアワード2024」の表彰式も行われ、約630人が参加した。
大野氏は冒頭、同社の経営戦略とじゃらんが目指す方向性について説明。「今後も引き続き、総地域消費額の増加が目指すべきゴールだ」と強調し、その具体的な取り組みの成功事例として、需要喚起施策「じゃらんのお得な10日間」を活用した和歌山県白浜町での冬季需要創出を紹介した。
大野氏は、じゃらんにおける宿泊関連サービスの総流通総額を示す国内宿泊予約流通取扱額が2024年度で過去最高水準の1兆3900億円(23年度比11%増、予約ベース取扱高)になったことも報告。インバウンド集客もコロナ禍前から約6倍の取り扱い額となり、今後は(1)幅広いOTAとの提携強化(2)販促施策の拡充(3)カスタマーサポートの強化(4)マッピングミスの修正強化―の4テーマに取り組むと説明した。
沢登氏は、「未来のこの街をもっと好きになる、『今から考える地域戦略』」と題し、2040年を見据えた観光戦略について講演した。15年後は、国内人口の減少や高齢者の割合増加、平均気温の上昇、AIネイティブ世代の台頭などが起こり、人口減少によって観光を担う人材がいなくなる「人材の空洞化」、環境変動による「観光資源の変質・消滅」が課題になると強調した。
これらを踏まえ、それぞれの課題に向けた取り組み事例を紹介。人材空洞化の対策については、シニア観光人材の活用と、那須町の観光事業従事者向け福利厚生サービスを紹介した。特にシニア人材の活用については、「地域文化技術の継承と体験価値の創出」「不便益がもたらす特別な体験」「シニアの存在がもたらす愛着と安心感」といった価値が生み出され、若年層を中心にこうした価値観を重視する傾向も表れ始めているとした。
環境変動も、地球温暖化を避けるのではなく、温暖化の時代に向けて適応していくべきと主張。地球温暖化で漁業に影響の出始めている長崎県や宮崎県で行われている、生クロマグロやウニの養殖・商品化を紹介した。
これらの外部環境の変化に加え、沢登氏は「観光が多領域と溶け合う時代」が到来すると予測。暮らすような旅を通じて地域とつながることが求められるようになるとした。新たな国内需要の可能性として「帰る旅」という概念を紹介し、リピーターが地域との深い関係性を築く「愛着人口」の創出が重要になると強調。地方にハウスステイし、そこで家業の手伝いをしながら現地に無料で宿泊できるプロジェクト「さかとケ」も紹介し、「帰る旅」のイメージを共有した。
若者に選ばれる宿 三つのヒントを提案
続いて登壇した森戸氏は、「若年層に選ばれる宿とは?価値観と旅行スタイルから探るこれからの旅」と題した講演を行い、若年層の価値観や旅行行動について解説した。
森戸氏は若年層に注目する理由として、(1)全世界の人口構成では若年層が37.5%を占めること(2)若年層は現地消費が盛んであること(3)トレンドセッターとなり得ること(4)ライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)が高いこと―などを挙げた。
特に、Z世代(1997年~2012年生まれの若年層)の旅行スタイルの特徴として、宿泊旅行実施率が高い一方、宿泊にお金をかけずに現地消費を重視する傾向があると説明。「地域ならではのものを発掘したい」「地域のためになる旅行をしたい」といった地域志向性が強い傾向にあるとした。
森戸氏は、Z世代の価値観の特徴として「正解を求めない」「意味やストーリーを重視」「共感・シェア欲求」「没入・自己投影志向」「所属せずにつながる」「『好き』の輪郭があいまい」の六つを紹介。さらに次世代のα世代については、「タイパ思考(時間効率重視)」「安心・安全志向」「メタ認知力(俯瞰(ふかん)する力)の高さ」「SDGsや倫理意識の浸透」「AIとの親和性の高さ」といった特徴があるとした。
こうした若年層に選ばれる宿泊施設のヒントとして、「自分ごと化できる世界観」「余白と選択肢のある滞在設計」「つながりの質を極める」の3点を提案。具体的な事例として、山梨県の「富士山の見える全室個室サウナ付旅館 しずく」の記念日プランや、石川県山中温泉「お花見久兵衛」が実施した会席料理からハーフブッフェ形式への転換などを紹介した。
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フォーラム後半では「じゃらんアワード2024」の発表・表彰式が開催され、優れた取り組みをした宿泊施設や地域が表彰された。「元気な地域大賞」には横浜市観光協会が選ばれたほか、「ベストプランニング大賞」には「富士山の見える全室個室サウナ付旅館 しずく」の「◇記念日プラン◇◆2食付◆しずく一番人気プラン♪特別な時間を特別な人としずくで」が選ばれた。
「じゃらんアワード2024」の受賞者ら
また「泊まってよかった宿大賞」「売れた宿大賞」なども発表され、宿泊施設の規模ごとに順位が発表された。各賞の客室規模ごとの1位受賞施設は次の通り。
■「泊まってよかった宿大賞」(総合)
【50室以下】草津温泉 末広屋旅館(群馬県草津町)
【51~100室】赤倉観光ホテル(新潟県妙高市)
【101~300室】JR東日本ホテルメッツプレミア幕張豊砂(千葉市美浜区)
【301室以上】帝国ホテル東京(東京都千代田区)
■「売れた宿大賞」
【1~10室】源泉かけ流しの宿 櫻休庵<OUKYUAN>(神奈川県箱根町)
【11~50室】女性に優しい癒しの宿 箱根湯本温泉ホテルマイユクール祥月(神奈川県箱根町)
【51~100室】TAOYA日光霧降(栃木県日光市)
【101~300室】ホテルエピナール那須(栃木県那須町)
【301~500室】東京ベイ舞浜ホテル(千葉県浦安市)
【501~700室】東京ベイ舞浜ホテル ファーストリゾート(千葉県浦安市)
【701~千室】グランドニッコー東京ベイ 舞浜(千葉県浦安市)
【1001室以上】品川プリンスホテル(東京都港区)