
客室レンタブル比
旅館には過大設備、稼働変動、施設老朽化の三つの課題がある。これは建築設計者としての見方で、それを数字で示してみたい。
過大設備には客室レンタブル比、大きすぎる浴場、団体向き調理の三つの課題がある。レンタブル比とは、共同住宅では延べ床面積に対して収益部分である賃貸可能面積の占める割合のことで65~80%となり、オフィスビルでは65~70%といわれている。
宿泊施設のレンタブル比は収益の柱である客室面積の延べ床面積に占める割合で、ホテルタイプによって大きく違い、宿泊特化型は80%を超え、リゾートホテルは50~60%と思われる。
一方、旅館のレンタブル比は調査した100施設では25%から30%になっていて、大浴場や食事処を含めた営業面積も50%に満たず、しかも大広間やコンベンションホールなど稼働率の低い営業施設も多い。
旅館は団体向きの建物を改修しながら使っているところが多い。私の経験では高度成長期の団体旅館は1人当たり30平方メートルを目安に設計し、和室10帖5人定員が標準客室なので1室当たりに換算すると30×5人=150平方メートル/室となる。
現在営業している旅館は延べ床面積を部屋数で割ると大体150平方メートルから200平方メートルの間にあるのはそのような理由からで、標準客室の和室10帖の面積が40~45平方メートルなのでレンタブル比は25~30%になるのが理解できる。
過去はそれでも採算が合ったのは、和室10帖の定員が5人と多く、パブリック施設での売り上げがあったからだ。個人客が中心になり客単価は上がったが、利用人員は半減するなど営業状況が大きく変化した中でレンタブル比30%は経営上問題になる。
営業面積以外には厨房、機械室、事務室などの管理部門が20%、ロビー、ラウンジや廊下などの共用部が35%を占め、それらの面積は売り上げに直接つながらないばかりか、空調、照明、メンテナンス、固定資産税などの費用が掛かる。対策としては宴会場なり会議室で景色の良い場所は客室に改修し、客室レンタブル比を40%に上げることだ。
長野県の外資系リゾートホテルは寒冷地なのに客室階の廊下を外部にするなど効率的な建て方で、客室レンタブル比が55%を超え、スパや飲食部門を含めた営業施設の面積は80%近くになっている。まずは運営している施設の客室レンタブル比、有効な営業面積の割合を知り、生産性が上がる施設になっているか、どこに問題があるか認識することが先決だ。
脱炭素社会で旅館が持続可能であるためにはベースとなる建物の構成と機能が健全であることが条件になる。今一度生産性とエネルギー効率の良い建物にバージョンアップする方法を考えよう。
(国際観光施設協会エコ・小委員長、日本建築家協会登録建築家、佐々山建設設計会長 佐々山茂)
客室レンタブル比