じゃらん、過去最高水準の流通額達成 「総地域消費額の増加」へ注力


じゃらん、過去最高水準の流通額達成 「総地域消費額の増加」へ注力

 リクルート旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏は6月30日、宿泊施設が参加する「じゃらんフォーラム2025(東京会場)」で登壇し、「リクルートおよびじゃらんの方針について」を発表した。同社の宿泊関連サービスの流通総額を示す「国内宿泊予約流通取扱額」は2024年度で約1兆3,900億円となり、前年から11%成長したという。コロナ禍からの回復を経て、過去最高水準での成長を継続している形だ。

「集客の最大化」と「業務負荷削減」に注力

 じゃらんは引き続き「総地域消費額の増加」を目指すべきゴールとして掲げている。この実現に向けて、①集客の最大化と②クライアントの業務負荷削減の二つに注力することで、「持続的かつ活気のある観光地づくり」に貢献するという。

 「まずは集客の最大化に向けた取り組みについてご紹介させていただきます。じゃらんでは地域の課題や特性を踏まえて需要の創出から伴走することで、集客と最大化に貢献してまいります」と大野氏は説明する。

地域の特性に合わせた需要創出

 その具体例として、和歌山県白浜町での取り組みが紹介された。白浜町は繁忙期の夏は花火と海水浴目的の宿泊者が多いが、一年を通して楽しめる「通年型観光地」へ転換したいという課題を抱えていた。

 じゃらんはこの課題に対し、温泉入浴やランチなど地域資源を活かした体験プランの造成を検討。さらに、そのプランに使えるクーポン配布で集客効果を高める仕組みを整えた。その結果、冬の閑散期にもかかわらず約2,000人の集客につながり、通年型観光地化への大きな一歩となったという。

「お得な10日間」で予約サイクル向上

 じゃらんは全国的な取り組みとしても、ユーザーの予約を促す施策を展開している。特に「じゃらんのお得な10日間」は、じゃらんが猫のイメージキャラクターを持つことを活かし、「ニャー」で20日、「肉球」で29日という語呂合わせを用いて毎月20日から29日まで開催する特別セールだ。

 「ユーザーに継続的な予約アクションを促す仕組みとなっております。その結果、施策開始からわずか2年間で経由の取り扱いが約2倍に成長するなど、大きな成果につながっております」(大野氏)

 SNS上では「月末にいつも安くなるから定期的に見てしまう」「安くなる日がわかるから旅行を計画しやすい」といった反応もあるという。

クーポン機能の拡充

 じゃらんはユーザーの予約アクション数を増やすため、施設が発行するクーポンをより活用しやすくする取り組みも進めている。

 具体的には、じゃらんの検索画面にクーポン専用タブを新設し、ユーザーが今使えるクーポンを簡単に見つけられるようにした。これにより、クーポン利用額は設置前と比較して約165%まで向上したという。

 さらに2025年6月からは、1回の予約で使えるクーポンの種類数を拡大。従来は施設発行のクーポンとじゃらん発行のクーポンを同時に使うことができなかったが、今後は両方のクーポンを併用できるようになり、ユーザーにより高いお得感を提供できるという。

ゴールド会員向け特典の強化

 じゃらんでは会員ユーザー、特にゴールド会員の予約促進にも力を入れている。ゴールド会員は一般会員と比べ、会員あたりの予約数が約9倍、予約単価が約1.7倍と非常に高い数値を示しているという。

 こうした上位会員に向けた新たな施策として、「ゴールド会員限定宿特典」の導入を検討中だ。これは予約するプランに関係なく、レイトチェックアウトやアーリーチェックイン、館内利用券などの付加価値をゴールド会員に提供するもので、より良い体験を求める会員の期待に応えることで予約行動をさらに後押しする狙いがある。

インバウンド対応の強化

 インバウンド予約については、じゃらんのインバウンドサービス経由の取扱額がコロナ禍前と比較して約6倍になったことが報告された。2024年度はインバウンドの主要エリア(北海道、東京都、千葉県、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県、沖縄県)だけでなく、それ以外の地域でも大きく成長しているという。

 インバウンド対応の強化に向け、じゃらんは以下の4つのテーマに取り組むとしている。

1. 幅広いOTAとの提携強化: アジア圏のみならず欧米圏のOTA(オンライン旅行代理店)との提携強化を行い、より安定した集客基盤づくりを目指す。

2. 販促施策の拡充: じゃらん原資クーポンの配布や提携先サイトでの露出強化施策など、宿泊施設の予約増加につながる取り組みを実施。

3. カスタマーサポートの強化: サポート人員の増加など、迅速なトラブル対応を可能とする体制強化を図る。

4. マッピングミスの修正強化: 専用人員の配置、モニタリング体制の強化を行い、在庫流通の正確性を向上させる。

これらの取り組みにより、インバウンド集客をこれまで以上に支援していく考えだ。

インバウンドサービス活用事例

実際にじゃらんのインバウンドサービスを活用した施設からの評価も紹介された。ある東京のホテルでは、複数の販路を活用して集客を行っていた結果、コスト増加とスタッフの業務負担が課題となっていた。

しかし、じゃらんを主要販路として活用することで、「国内・インバウンドの管理画面が一つにまとまっていて操作しやすい」「トラブル対応に関して信頼できる」「提携先が多い」「利用料が安い」といった点が評価され、コスト削減と業務負荷軽減を実現。結果として宿全体の売上向上にもつながったという。

業務負荷削減への取り組み

 じゃらんでは宿泊施設の業務負荷を軽減するための取り組みも強化している。特に「セールプラン/クーポンの管理・作成、エントリーにかかる負担が大きい」という声に応え、それらを簡単に行える機能を実装した。

 具体的には、施設のセールエントリー状況を一目で確認できる機能を導入。いつ、どの施策に参加できているかが分かるようになり、エントリー忘れの防止につながったという。この機能は約95%の施設から好評価を得ているとのことだ。

 また、セールプランの作成・エントリーも簡素化された。従来は複数のステップが必要だったが、新機能では元プランに対する割引率を設定するだけで完了するようになった。施設からは「ミスがなくなり審査NGも減った」「1回あたりの作業時間をかなり減らすことができた」といった声が寄せられているという。

生成AIを活用した業務効率化

 宿泊施設だけでなく、地域行政事業者の業務負荷削減にも取り組んでいる。その事例として、静岡県熱海市とじゃらんリサーチセンターが共同で取り組んだ生成AI活用プロジェクトが紹介された。

 このプロジェクトでは、生成AIを活用することでインバウンド対応やマーケティング分析にかかる工数を最大15分の1に削減することに成功。具体的には、台湾やアメリカなど世界22市場ごとに旅行者特性を分析し、それぞれの市場や嗜好にマッチする観光スポットを導き出すことができるようになった。

 例えば「台湾の方々は日本人と同じような思考を持たれていて、スイーツや高級品、軽感などのスポットを紹介するのが有効」といった分析が可能となり、ニーズ分析の作業時間は207時間から14時間と、約15分の1に短縮されたという。

 また、この技術を活用して多言語の観光案内をQRコードでリスト化し、デジタル観光地図として活用する取り組みも始まっている。熱海市では今後この取り組みを宿泊施設にも広げていきたいとしており、「各宿泊施設が自分たちの持つソリューションを外国人旅行者にアピールすることで、多くの顧客を引きつけることに成功できるだろう」と期待を寄せている。

リクルートの取り組み

 講演の前半では、リクルートグループ全体の方針についても説明があった。リクルートは「世界中で個人ユーザーと企業クライアントをより速く簡単につなぐサービスやプロダクトを提供し続けること」に取り組んでおり、3つの経営戦略を掲げているという。

1. Simplify Hiring(人材マッチング市場における採用プロセスの効率化)

2. Help Businesses Work Smarter(日本国内企業クライアントの生産性および業績向上)

3. Prosper Together(ステークホルダーとの共存共栄を通じた持続的な成長)

 人材マッチングの効率化に向けては、求人配信プラットフォーム「Indeed PLUS(インディードプラス)」を通じて、求人サイトの垣根を越えてより多くの人材にリーチする取り組みを行っている。

 観光業界においても、立地上採用が難しく車通勤が必須のため応募が少なかった旅館が、Indeed PLUSを利用して9名の応募獲得、1名の採用に成功した事例や、大手ホテルが求める人材要件に合わせた掲載先の最適化により200名の応募と15名の採用につなげた事例などが紹介された。

 また、クライアントの生産性と業績向上に向けては、業務支援SaaS「Air ビジネスツールズ」の活用事例として、神奈川県箱根町での取り組みが紹介された。観光客の増加で飲食店の行列が発生し、スタッフの負担が増加する問題に対し、町が各店舗に「AirWAIT(順番待ちシステム)」の導入を促進。これにより行列が緩和してスタッフの負担が軽減されただけでなく、AirWAITで取得した各店舗の待ち時間を観光マップに連携することで、観光客がスムーズに町を周遊できるようになったという。

「旅に、人生に、もっと♪を。」

 講演の最後に大野氏は、じゃらんのスローガン「旅に、人生に、もっと♪を。」に触れ、「人と地域の出会いに満ちた笑顔があふれる世の中でありたい」というありたい姿を示した。

 「私たちは、地域社会を活性化するために、日々の生活を豊かにする新たな機会の提供に全力で取り組みます」と使命を語り、「日本のために、今やろう」というアクションを掲げた。

 「大きく変化し続ける日本全体の旅行業界の成長に寄与していきたいと考えております。皆様、引き続きどうぞよろしくお願いいたします」と締めくくった。

【kankokeizai.com編集長 江口英一】

 
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