
マレーシアからの訪日旅行が堅調だ。2024年の訪日者数は過去最多の50万6800人となり、2025年1~5月は5カ月連続で同月の過去最高記録を更新した。マレーシア政府観光局が昨年9月に発表したマレーシア人の国外旅行意向調査でも「2024年の旅行先」としてタイ、インドネシア、ベトナムといった近隣国に次いで日本が4位につけており、訪日旅行への関心の高さがうかがえる。
観光庁のインバウンド消費動向調査によると、2024年のマレーシア人1人当たりの旅行消費額(観光・レジャー目的)は22万154円で、コロナ前の2019年と比べて約65%増えている。食品や衣類等の買い物はもちろん人気だが、着物体験や伝統工芸品づくり等のコト消費も活発だ。日本への再訪意欲も2019年比で14%増加しており、実際に訪日3回目以上のリピーターの割合が着実に伸びている。
こうした旅行行動の中心となるのは、人口ボリュームゾーンである20~30代だ。マレーシアの人口増加率は約2%で2040年には4150万人に達するといわれており、平均年齢は30・9歳と若い。彼らはアニメや漫画といった日本のポップカルチャーに触れて育ち、日本食にもなじみが深い。旅行予約にはOTA(ネット上で手配を行う旅行会社)をフル活用し、公共交通機関やレンタカーを駆使して個人旅行を楽しむ。主な情報源は、SNSでの友人・知人の口コミやインフルエンサーの発信だ。長い説明文を読むことを好まないため、ショート動画が特に人気を集める。マレー系、中華系ともによく利用するプラットフォームはFacebook、Instagram、TikTokだが、人口の約2割を占める中華系の中には中国本土で人気の小紅書(RED)を使う人も多く、台湾、香港を含む中国語圏の流行も素早く吸収している。家族旅行が主流で、子どもや両親を伴った3世代旅行や複数世帯による親族旅行等、大人数で旅行するケースも多くみられ、1グループ当たりの旅行消費額は高い。
今後の課題は地方分散だ。観光庁の宿泊旅行統計によると、コロナ後の宿泊数は三大都市圏で伸長が見られる一方、地方部宿泊数はおおむね横ばいとなっている。マレーシア人は「豊かな自然」に対する期待が大きく、訪日マーケティング戦略でも主要な訴求パッションに位置付けている。JNTOが実施した重点市場基礎調査では約8割が「地方訪問を希望する」と回答していることからも、地方宿泊のポテンシャルは十分にあると考える。地域別に見ると、東北各県は伸び率が顕著で、特に冬期の需要が目立つ。大手旅行会社が東北へのチャーターツアーを毎年催行していることも影響し、雪景色を楽しむために訪れる人が増えているという。一方、福岡空港への直行便が復便していないため、九州各県はコロナ前の水準を下回った。しかし、Googleの旅行需要分析によるとマレーシアで昨年最も検索数が上昇した地域は福岡であり、訪問意向は高いものと見られる。
JNTOクアラルンプール事務所ではこうした需要に応えるため、通年で実施しているSNS投稿に加え、航空会社と連携したインフルエンサー招請等を通じて、公共交通機関を活用した周遊プランや日本各地の四季折々の景観を若年層に訴求し、地方誘客を進めていきたい。