【北海道・修学旅行特集】民族共生象徴空間「ウポポイ」が開業5周年 アイヌ民族の歴史・文化を学び伝える


ウポポイ全景

ウポポイ全景

毎年30数万人が来場、道内外からの教育旅行で6万人超

 湖からの爽やかな風につつまれて広がる民族共生象徴空間「ウポポイ」。国が先住民族であるアイヌ民族の文化復興拠点として2020年に北海道白老町ポロト湖畔に設置したナショナルセンターだ。7月で開業5周年を迎える。約10ヘクタールの敷地に国立アイヌ民族博物館や体験交流ホール、体験学習館、工房、茅葺のチセ、野外ステージなどを整備。アイヌ民族の貴重な文化財や資料の展示、古式舞踊の上演、工芸品の製作実演など多彩な体験メニューを提供している。開業がコロナの感染拡大の時期と重なり、一時、休園するなど苦心の運営を余儀なくされた。しかし、これまで約140万人、毎年30数万人が来場。修学旅行でも道内外から6万人を超える生徒が訪れるなど、北海道の新たな名所となり、教育旅行の学習の場となっている。

「ウポポイ」運営本部長 村木美幸さんに聞く開業5周年に寄せた思い

多文化共生社会の在り方学んで
 コロナ禍だった開業当初に比べ、お客さまとスタッフによる交流のプログラムが増えています。一緒に歌ったり楽器を演奏したり弓矢を試したり、世代を問わずアイヌ文化を体感できます。

 最近の教育旅行では、生徒による探究学習への取り組みがテーマになっており、「ウポポイ」でも同じ地域の登別・洞爺エリアと連携し、共生社会実現の探究学習プログラムを提供しています。

 全国からの高校生の皆さんが、このプログラムで「ウポポイ」をはじめ、登別・洞爺エリアを巡り、地域の人たちとの交流やさまざまな体験をすることで、テーマである共生社会の在り方を考える気づきを得ていただくことができると考えています。事前学習、現地学習、事後学習をサポートしますので、ぜひ、ご活用ください。

 また、夏休み期間には、子供も大人もみんなで楽しめる体験やものづくりワークショップを企画しております。スタッフとも交流し、アイヌ文化に触れ、感じ、楽しんでいただきたいと思っています。

 園内ではワークシートを配布していますので、夏休みの自由研究にも活用いただくなど、「ウポポイ」での1日を夏の良い思い出にしてもらえればと思います。多くのお客さまの来場をお待ちしております。

村木本部長
村木本部長

■アイヌ民族と文化
 アイヌ民族は独自の言語や文化、歴史を有する先住民族で、アイヌはアイヌ語で「人間」を指す言葉。

 本州北部、北海道、樺太、千島列島などに住み、狩猟、漁撈(ぎょろう)、採集、農耕、周辺民族との交易を生業とし、各地にコタン(村または集落)を形成して暮らしてきた。

 現在は、北海道を中心として、本州以南や、さらに海外にも暮らす人がおり、さまざまな職業に就いている。

衣服や道具、祭具に見る美しいアイヌ文様、ユカラに代表される口承文芸、カムイを敬い感謝し、ともに楽しむ歌や踊りや祈りなど、固有の世界観を伝承し発展させてきた。

施設紹介

愛称「ウポポイ」

 愛称の「ウポポイ」はアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味している。

 国が2014年に拠点設置の基本方針を決め、17年から3年の工期をかけて建設。20年7月に開業し、公益財団法人アイヌ民族文化財団が管理運営を行っている。

 開園は、平日が9時から18時(11~3月は17時)で、9~10月の土・日・祝日と7月中旬~8月は20時まで。休園は毎週月曜日。入場料金は、大人が1200円、高校生が600円で団体割引もある。中学生以下は無料となっている。

 一昨年から新型コロナが5類に移行したのを受けて活動も本格化。

 来場者がよりアイヌ文化に触れて感じ、学び、楽しんでもらえるよう、新たに弓矢やアイヌ語のインスタレーションアートなどが体験できる施設を増設。園内を低速で移動するスローモビリティ(22人乗り)の導入や、土・日・祝日の参加型プログラム、夏休み期のイベントも強化した。

 さらに、14時以降の入場料金の割引を実施するなど、積極的な取り組みを進めている。

 そこで、5周年を迎える「ウポポイ」の施設や体験プログラムを紹介する。

ウポポイ全景
ウポポイ全景

国立アイヌ民族博物館

 先住民族アイヌを主題とした日本最北の国立博物館で、アイヌ民族の貴重な文化財や資料約1万点と映像を収蔵している。アイヌ民族の視点に立った多彩な展示やイベントを通じて、来場者にアイヌ民族の歴史や文化を紹介する。

 基本展示室は「私たちのことば」「私たちの世界」「私たちのくらし」「私たちの歴史」「私たちのしごと」「私たちの交流」の6つのテーマで構成し、展示件数は約800点に上る。

 中央のプラザ展示から周辺に自由に回りながら見学していく。模型や触れる展示物で歴史と文化を体験してもらうコーナーも設けた。

 特別展示室では、世界の先住民族の歴史、文化に関する最新の調査・研究の成果を紹介する展覧会なども開催。

 週末には研究員・学芸員による展示の解説や誰でも参加できるアイヌ語教室などのイベントも行っている。

【映像・参加イベント】
〇「アイヌの歴史と文化」「世界が注目したアイヌの技」「普段着のアイヌ」の上映(シアター、毎日)
〇「展示解説」「講演会」「アイヌ語教室」などの特別イベント(週末など)

衣服の展示(国立アイヌ民族博物館)
衣服の展示(国立アイヌ民族博物館)

交流体験ホール

 ユネスコ無形文化遺産に登録された古式舞踊や各地で伝承されている歌や踊りや語りの上演、ムックリ(口琴)やトンコリ(五弦琴)の演奏を行っている。

 定員303人の快適なホールは、客席とステージが近く、出演者と顔の見える交流ができ、会場一体となって楽しむことができる。

【実演・映像プログラム】
〇「シノッ」(踊り、遊び)、「イメル」(稲光)の上演(毎日、4~5回)
〇「カムイ・ユカラ」(神謡)アニメの上映(毎日)

伝統芸能の上演(体験交流ホール)
伝統芸能の上演(体験交流ホール)

工房

 スタッフによる木彫、刺しゅう、織物、編物の製作実演や解説、スタッフの指導を受けて製作できる体験プログラムを提供している。自分だけの特製スマホスタンドやコースターを作ってみるのも楽しい。

 ムックリや、トンコリの演奏にも気軽にチャレンジしてほしい。

【ワークショップ】
〇ムックリ、トンコリの演奏体験(毎日)
〇木彫、刺しゅうの製作体験(毎日)

ムックリ(口琴)の体験(工房)
ムックリ(口琴)の体験(工房)

チセと野外ステージ

 茅葺のチセ(家屋)5棟によるコタン(集落)を再現。季節に合わせた生業の公開も行っており、かつての生活を知ることができる。アイヌが敬うカムイ(人間の周りに存在するさまざまな生き物や事象のうち、人間にとって重要な働きをするもの、強い影響があるもの)とのつながりを紹介する紙芝居や、ビンゴで遊びながら動物や民具のアイヌ語を学ぶプログラムもあり、子供たちと一緒に参加できる。

茅葺のチセ(家屋)が並ぶコタン(集落)
茅葺のチセ(家屋)が並ぶコタン(集落)

体験学習館

 教育旅行や団体客に対し、さまざまな体験プログラムを提供し、アイヌ文化の理解を深め、楽しんでもらう施設。

 本館は最大280人が利用できる教室になっており、人数に応じて区切って使うことができ、ムックリの演奏やアイヌ料理実食の体験プログラムを実施している。アイヌ文化への理解を深めてもらうのが狙い。

 開業後、別館2棟を増設しており、別館では弓矢やアイヌ語のインスタレーションアートが楽しめる。

 アイヌ文化を深く知ってもらうためには、実際に触れ、体験することが大事で、体験プログラムの開発や強化に力を入れている。

【体験プログラム】
〇弓矢、VR、インスタレーションアートなど(毎日)
〇アイヌ料理の調理体験(平日のみ)
〇アイヌ料理「オハウ」の実食(週末のみ)

伝統料理の実食(体験学習館)
伝統料理の実食(体験学習館)

教育旅行学習プログラム

 教育旅行の受け入れに力を入れて取り組んでおり、毎年、道内外の学校から6万人を超える生徒たちが来場する。

 その教育旅行の学習に対応したモデルコースや体験プログラムを用意。事前に学校や旅行会社と綿密に打ち合わせながら、生徒たちの学習に応えた受け入れ態勢を確立している。

【モデルコースの例】
(2時間コース)
博物館(基本展示室)見学、伝統芸能鑑賞、自由見学
(3時間コース)
2時間コースのほかアイヌ料理食体験がプラス
(1日コース‥約4・5時間)
3時間コースのほかムックリ演奏体験がプラス

〇旅行会社と連携し、周辺の登別、洞爺エリアを巡り、地元の人たちと交流し、多文化共生を考える学習プログラムも提供している。

 

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