脱炭素でスマートな旅館 国際観光施設協会エコ・小委員会 49 コストダウンと脱炭素の切り札・地中熱その8 ~日本では低調だが、ポテンシャルは大きい~


図1 人口当たりの地中熱ヒートポンプ設備容量

 前回、ヒートアイランド現象で書き足りなかったことから書き始める。

 地中熱利用ヒートポンプは、現在広く用いられている空気熱源ヒートポンプに比較して消費電力を3分の1程度削減可能と仮定することにより、東京電力管内のピーク時間帯で空調に係わる消費電力1千万キロワットのうち330万キロワットを節約できると試算した例もある。

 外気に排熱しないことからヒートアイランド現象の緩和効果もあり、仮に都内のオフィスビル街区の気温を1度下げることができれば170万キロワットが節約できる。両者の効果により夏のピーク負荷を500万キロワット低減させることが可能と試算している(日本地熱学会地中熱利用技術専門部会「電力ピーク負荷低減のための地中熱利用ヒートポンプの導入促進の提言」)。都市部に立地する宿泊施設の冷房排熱も寄与することから導入を検討してほしい。

 ここから本号のテーマを記す。これまで、わが国での地中熱利用のうち、ヒートポンプを利用した件数は3200件強で、地中熱利用全体の3分の1を占める。建物用途では、戸建て住宅、事務所や庁舎、学校などの他、農業施設にも多く導入している。宿泊施設は62件だ。

 日本は、欧州、アメリカ合衆国や中国と比べて地中熱利用ヒートポンプシステム導入が桁違いに遅れている。近年、目覚ましく増えているのが中国である(2021年度末、環境省水・大気環境局水環境課「令和4年度地中熱利用状況調査結果」より)。

 日本の2021年度末の設備導入容量(環境省調査)は226MWt(メガワットサーマル、熱利用設備の容量を表す単位)。一方、中国の20年度の設備容量は約2万7千MWt。10年時点が約5千MWtであったので、10年間で5・4倍に増えた。日本と中国では、国土面積も人口も全く異なるので比較にならないが、伸び率には注目すべきところがある。

 2008年に開催した北京オリンピック(夏季)で、大気汚染がアスリートの健康への悪影響が国際的に問題視された。22年の北京オリンピック(冬季)に向けて改善をはかる一環で地中熱ヒートポンプシステムの設置が加速したとされる。

 19年に開港した北京大興国際空港は、250万平方メートルの事務エリアを地中熱が1割程度まかなう。これ以前の08年11月に開業した北京JUSCOがメインテナントとして入居した中関村国際商城(ショッピングセンター、延べ面積15万6千平方メートル)にも大規模に地中熱を採用した。

 日本と同程度の国面積のドイツやフィンランドでも日本の約10倍以上、地中熱を利用している。

 図1は国別の人口当たりの設備容量である。スウェーデンは、1人当たり日本の500倍以上の割合で導入されている。

 図2は、国土面積当たりの採熱量だ。面積当たりのスイスの採熱量は、日本の152倍である。スイスの現状を考えると、日本は今後150倍以上の地中熱ヒートポンプの導入ポテンシャルを持っていると考えられる。

(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)


図1 人口当たりの地中熱ヒートポンプ設備容量


図2 面積当たりの地中熱ヒートポンプ採熱量〔安川香澄「地中熱ヒートポンプ利用の世界状況」、地中熱利用促進協会ニュースレター391号〕

(観光経済新聞25年5月19日号掲載コラム)

 
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