【全旅連全国大会特集】2期目の所信、活動方針を井上善博会長に聞く


井上善博会長

井上善博会長

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の第103回全国大会が6月17日、東京のホテルニューオータニで開かれる。全国から組合員旅館・ホテル経営者、関係者千人以上が参集。人手不足をはじめ、宿泊観光業界が直面する課題の解決に向けて議論を深める。就任2期目を迎える井上善博会長(福岡県原鶴温泉・ほどあいの宿六峰舘社長)に「井上体制2期目の所信、活動方針」を聞いた。(聞き手=本社・森田淳)

人手不足解消へ 若い世代に働き掛けを

2年間の振り返り

――「井上体制」1期2年の振り返りを。

 宿泊観光業界を良くしたい、という思い一心で今まで無我夢中で取り組んできた。

 まず、思い起こすのは昨年元日に起きた能登半島地震。被災者の方が大変な思いをしている中で、その受け入れに組合員の旅館・ホテルの皆さまに尽力いただき、事務局員も精力的に動いた。改めて感謝を申し上げたい。

――被災者の受け入れは、東日本大震災など、大災害が起きるたびに業界挙げて取り組んできた。

 東日本大震災の時、私は全旅連の青年部長を務めていた。

 われわれは地域文化のショーケースとして、地域の伝統を受け継ぎつつ、お客さまをもてなすこと、ひいては地方創生に寄与することが重要な役割だと考えている。

 同時に、災害時の被災者受け入れもわれわれにとっての大きな役割だ。

 東日本大震災の時、業界が行った一連の活動を目の当たりにして、われわれの役割について改めて真剣に考えさせられた。

――全ての都道府県旅館・ホテル組合が行政と災害協定を結んでいる。

 われわれが行政から重要な社会インフラだと認識されているからこそであり、大変意義深いことだ。

――1期目でさらに思い浮かぶことは。

 全旅連という組織には、さまざまな地域の方、年代の方が所属している。業界を良くしたいという思いを皆さん、共通してお持ちだが、先輩方と若い方たちでは、当然かもしれないが、見る視点が異なったりする。コミュニケーションの手段も今までの紙媒体からSNSなどデジタルに変わってきている。そうした状況の中で私自身、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まる組織のかじ取りの難しさを痛感するとともに、大変勉強になった。

業界を取り巻くさまざまな課題への対応

――宿泊観光業界の現状について。人手不足が相変わらず深刻だ。

 人手不足、人材不足については、外国人材の就労に向けた試験を行う宿泊業技能試験センターが全旅連を含めた宿泊4団体で設立され、現在は全旅連の会長代行で北海道ホテル旅館生活衛生同業組合理事長の西海(正博)さんが理事長となり、スピード感をもって運営に当たっている。おかげさまで受験者も順調に増えている。

 今後は、人手を欲している組合員の旅館・ホテルの皆さまに、全旅連が試験の合格者を紹介するなど、一歩踏み込んだ取り組みを行っていきたい。

 日本人、外国人を問わず、特に若い世代にわれわれ宿泊業に関わってもらえたらうれしい。これらの世代に向けての働き掛けは青年部とも連携を取り、考えていきたい。

――一部で問題になっているオーバーツーリズムについて。

 何をもってオーバーツーリズムと呼ぶのか定かではないが、お客さまが来ることによって地域が潤うのか、地域住民が幸せになるのか、という観点で見るのが大事ではないか。

 外国人旅行者数でみると、ほとんどお客さまが来ていない地域もあり、その差が大きくなっているのは事実だ。国も観光客の地方分散を呼び掛けており、全旅連としても、地域の宿が外国のお客さまの受け入れ準備を進めていくことが重要だ。

――諸経費が高騰しており、旅館・ホテルも経営に苦労されている。

 食材や燃料など、以前の金額ではとても買えない状況。人手不足に伴い、人件費も上がっている。ありとあらゆるところでコストが上がり、最近さらに拍車がかかっている。適正な価格転嫁が必要だ。

 東京や大阪のように、観光や出張のお客さまが集まる地域では比較的価格転嫁がしやすい。しかし地方となると、料金を上げると従来のお得意さまや地元のお客さまの足が遠のくという問題がある。一朝一夕では解決できない問題で、悩ましいところだ。

井上善博会長
井上会長

委員会を再編成、8部会制に

業界の課題に詳しい識者の協力も不可欠

――会長2期目を迎えるに当たっての所信と、全旅連の新体制、今年度特に注力して取り組むことは。

 われわれ宿泊観光業界が直面する課題は多岐にわたっている。解決のためには、その内容ごとに深い知識を持つ人たちに集まってもらうことが必要だ。

 新年度は委員会を刷新し、定款に基づいた8部会制に再編成することを検討している。

 第1部会は、総務的中核部門として組織基盤の整備と運営体制の強化を担うとともに、全国旅館会館、全旅連事業サービス、全国旅館ホテル事業協同組合など、全旅連と関係の深い諸団体との関係の在り方を精査する。

 第2部会は「湯・宿」文化推進部会の名称で、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録を目指し、関係諸団体と連携して活動する。日本旅館協会と共同で、「旅館の定義」についても検討する。言語化したものを媒体に落とし込み、国内外にPRする。

 第3部会は、宿泊業技能試験センターが行う特定技能試験の受験者拡大を図る。海外で旅館の仕事を紹介するジョブフェアやSNSでの広報活動を行うほか、採用がなかなか進まない中規模以下の宿泊施設に対する外国人材の好事例の発信も行う。また、観光庁推奨の人材受け入れプラットフォームの活用促進にも取り組みたい。

 第4部会は、大型台風の上陸予想が報道された時など、宿泊施設にキャンセルが殺到する場面で、キャンセル料請求と収受が適切になされるための研究。各宿の営業に資する指針を検討する。

 第5部会は従来のシルバースター部会だが、シルバースター登録制度が発足して28年たち、次の時代を見据えた制度へのリニューアルを検討する。登録によるメリットの拡大や、国による「観光施設における心のバリアフリー認定制度」への関わりも検討したい。

業界の地位向上、対外アピール

 第6部会は、業界の地位向上、組織力向上につながる、組合員の増員に関わる取り組みを行う。既存の組合員の皆さまに組織のメリットや活動について理解していただくとともに、会員増強に向けた活動に使うツールを作成する。

 第7部会は地域共創事業部会の名称で、われわれ宿泊観光業界の対外的なアピールを行う。全旅連青年部が主催する「宿フェス」の企画運営や認知度向上に寄与するほか、国や地方自治体、DMOと連携した観光需要の創出、旅行会社やIT企業などの異業種と協働した新たなサービスの創出、さまざまなメディアを活用した業界の広報活動を行う。

 第8部会は「シン・価値創造部会」の名称で、災害時の関連情報共有システム、ふるさと納税、火災保険など各種の事業の磨き上げ、普及推進活動を行う。

――かなり大幅な刷新となる。

 ITやAIの進歩など、時代が大きく変わっている。全旅連の活動も、これらを見据えて変わっていかねばならない。

 次の時代を担う若手と言われるが、多くの方が50前後となっている。これまで地域や宿で活躍してきた彼らの力も借りつつ、これまで業界をけん引してきた先輩方の力ももちろん必要だ。皆さまの知恵と力をお借りして、業界の課題解決に向けて引き続き取り組みたい。

「温泉文化」のユネスコ登録 関係団体と連携して活動

――「『温泉文化』ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会」の事務局として、今後どう取り組むか。

 「温泉文化」の最速2028年のユネスコ無形文化遺産登録実現へさまざまな活動を現在進めている。

 ユネスコ登録は、温泉や温泉地の存在価値について、人々の認知度を高め、そこで働く人々の誇りを醸成する。その実現に向けて、引き続き強力に取り組みたい。

 同時に、「温泉文化」の重要性や定義について、今まであいまいな部分もあり、これらを明らかにすることも大事だと思い、この点の議論もしたい。

 先般、「『温泉文化』ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会」で、今まで参加をしていなかった県の知事が参加し、ついに47都道府県全ての足並みがそろった。われわれとしても非常に心強い。

――全旅連青年部とJKK(女性経営者の会)との関係について。

 青年部はわれわれ宿泊観光業界の実働部隊として、その時々の問題解決に先頭に立って取り組んでいる。塚島(英太)部長が2期目を迎え、これからさらに勢いを増して、業界のために働いてくれると期待している。

 JKKは新たに山田(佐知)さんが会長に就任し、勉強会や社会貢献活動に引き続き精力的に取り組まれている。今後も女性ならではの視点で業界や社会のために尽くしていただきたい。

 親会も青年部、JKKとさらに連携を深め、他団体も含めて業界全体のさらなる発展のために努力したい。

――全国の組合員旅館・ホテル、全国大会参加者にメッセージを。

 今年の全国大会は第100回以来、3年ぶりの東京開催となる。会場は前回と同じホテルニューオータニ。

 夏の参議院選挙を控え、われわれの業界に理解のある多くの国会議員の先生方もいらっしゃる予定だ。ぜひ多くの皆さまにお集まりいただき、自由闊達(かったつ)に意見交換をしていただきたい。

2期目に向けてさまざまな活動方針を示した
2期目に向けてさまざまな活動方針を示した

 
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