【日韓国交正常化60周年特集】対談「日韓人的交流60周年の歩みと今後の展望」 大韓航空常務日本地域本部長・李碩雨氏×成田国際空港社長・田村明比古氏


日韓国交正常化60周年を迎えた両国の交流は、空と空港という視点から見るとどのような変化を遂げてきたのか。1200万人を超える人的往来の背景には何があるのか。成田国際空港株式会社の田村明比古社長と大韓航空の李碩雨(イ・ソグ)常務日本地域本部長が対談を通じて、両国の交流の歴史と未来を語った。(司会=観光経済新聞編集長 森田淳)

両国間の便数増やし、お客さまの利便性高める

 ――お二人のこれまでの仕事の中で、日本と韓国それぞれの国に携わったきっかけや印象に残る出来事をお聞かせください。

 田村 韓国のソウルに初めて行ったのは、海上保安庁に勤務していた1980年代半ばだった。本格的に日韓関係に携わったのは、2000年から2002年まで当時の運輸省観光部で旅行振興課長を務めていた時期だ。毎年観光当局間の協議や観光振興協議会を通じて日韓間の観光交流拡大に取り組んだ。

 当時はカウンターパートの韓国側の課長と「EASTプラン」(東アジア広域観光交流圏構想)について合意した。この時期は日本から韓国に約200万人、韓国から日本に約100万人が訪問し、両国のインバウンド観光客はそれぞれ400万人程度だった。5年間でこれを倍増させようという計画を立てた。その後、2001年にはUNWTOの世界総会を日韓共催でソウルと大阪で開催するなど、交流を深めてきた。

田村明比古氏
田村明比古氏

  私は1993年に大韓航空に入社し、初めて国際線に乗ったのがソウルから大分へのフライトだった。日本に関わったきっかけは、私の上司が日本での勤務経験者だったことから日本に興味を持つようになった。2005年に短期派遣として大阪の予約センターで1年間勤務し、初めて日本語を学んだ。その後、韓国に戻った後も再び日本に赴任し、2005年から現在までの約20年間のうち14年間を日本で勤務している。

 この間、2008年の金融危機、2011年の東日本大震災、そして近年のコロナ禍など大変なことも多かったが、航空会社としてその時々の状況に応じた対応をした。東日本大震災時は救援物資の輸送、コロナ禍では生活物資の輸送や、日韓路線が全て運休する中で唯一成田―仁川を継続して運航するなど、特に成田空港には大変お世話になった。

李碩雨氏
李碩雨氏

 ――韓国から日本の多くの空港に就航されていますが、地方空港へ路線を拡大することの意義についてどのようにお考えですか。

 田村 日韓間の交流拡大には、地方と地方の交流が非常に重要だ。お互いの国の地方を訪ね、その国らしいところを見て、経験して楽しむことが大切である。その意味で地方路線が増えていくことは良いことだと思う。特に最近は韓国の若い方が地方路線を利用して日本の地方を訪れる機会が増えており、両国の関係にとって非常にプラスになっている。

  地方路線は韓国と日本の両国にとって重要な架け橋だ。大韓航空としては地方路線を増やしていきたいと考えている。日韓路線は成田、関西、福岡、名古屋などの主要空港が中心ではあるが、さらなる成長のためには視野を広げて地方に展開していく必要がある。

 大韓航空は、コロナ前の日本への就航地は12空港だったが、現在は15空港に増えている。

 2024年に長崎と熊本、今年4月に神戸に就航し、海外からの観光客がますます日本へ旅行しやすくなり、それが地域の活性化にもつながっている。

 航空会社としては効率的な運航が重要だが、地方としては直行便を運航してほしいという希望が大きい。そのバランスをどう取るかが難しい点だ。現在、地方路線は韓国のお客さまの割合が多い状況だが、今後も地方自治体と協力して日本から海外に行く人を増やす施策を継続して行っていきたいと思う。

対談の様子
対談の様子

交流の数・質ともに向上、さらなる拡大を期待

 ――昨年、日韓間の人の交流が1200万人を突破し過去最高となりましたが、この点についての所感をお聞かせください。

 田村 2000年ごろに日韓間の人の往来が300万人だったことを考えると、現在は4倍になっている。非常に喜ばしいことだが、内訳を見ると韓国から日本への訪問が880万人で8・8倍になっているのに対し、日本から韓国への訪問は320万人で1・5~1・6倍程度にしか増えていない。このバランスの悪さは課題である。

 特にうれしいのは若い世代の交流が活発になっていることだ。日本側からはK―POPや韓流ドラマへの関心、韓国のコスメ人気など、韓国側からは日本のアニメや食文化への興味など、文化面での交流が深まっている。この20~30年の間に交流の数だけでなく質も向上しており、今後さらに広がることを期待している。

  社長のおっしゃる通り、不均衡が課題だ。以前私が大阪で勤務していた時代は日本人客が韓国人客の2~3倍だったが、今は状況が逆転している。

 今年1月から3月までに韓国から日本を訪れた人は250万人で、日本のインバウンド全体の4分の1を占めている。一方、日本から韓国への訪問は約80万人にとどまっており、人口比を考えるとまだまだ少ない。

 日本が2030年までに6千万人のインバウンド目標を掲げる中、日韓間はさらなる往来の拡大が必要だが、同時に日本からの海外旅行を促進することも重要な課題だ。

 ――成田空港の今後の計画についてお聞かせください。

 田村 成田空港は1978年に開港して50年近くが経過した。首都圏は世界最大の都市圏であり、特にアジア地域の成長により航空市場は今後も拡大していくと予測されている。空港のキャパシティ拡大と施設の更新が必要だ。

 国の政策として、成田空港に新しい滑走路をもう1本建設する計画を進めており、2029年春の完成を目指している。同時に、B滑走路を1千メートル延長し、B滑走路とC滑走路を1本のように運用することで、どのような風向きでもターミナルに近い場所から離着陸ができるようになり、航空会社にとって地上走行時間の短縮につながる。

 昨年発表した「新しい成田空港構想」では、「旅客ターミナルの集約」「新貨物地区の整備」「鉄道・道路アクセスの改善」「周辺地域との一体的な開発」という4本柱で進めていく。これにより大韓航空グループを含めた航空各社の増便にも十分対応できるようになる。
地方路線も重要だが、まずは首都圏の空港としての機能をしっかり強化し、そこから地方へのアクセスを整備していくことが重要だと考えている。

 ――大韓航空の今後の日韓路線の戦略についてお聞かせください。

  来年12月以降、アシアナ航空との合併が進行する予定だ。日韓路線は国内線のような感覚でご搭乗いただけるようお客さまの利便性を高めていきたい。合併後の運航便数は、LCCを含めグループ全体の現在の便数を単純合計すると成田―韓国路線だけでも週145便、毎日約20便となる。合併後は、両社が同じ時間帯に運航しているスケジュールを分散させ、お客さまの利便性を高め、効率的な運用を図る予定だ。

 合併によりフライトが増えることで、日韓路線のみならず、アメリカ、欧州、東南アジアなどへの乗り継ぎ便が増える。日本から出発されるお客さまもさらに便利にご利用いただけると思う。

 フライトが増えることでスタッフや事務所などさまざまな準備が必要となる。これから多方面で準備を進めていく計画だ。

 ――さらなる日韓の人的交流促進に向けての提言をお聞かせください。

 田村 航空便の充実は交流拡大に大きく貢献している。特に手頃な価格で往来できることが重要だ。高額な航空運賃よりも訪問先でのホテルや食事、お土産に予算を使いたいという旅行者は多い。

 航空ネットワークとしての選択肢は昔に比べて格段に増えているので、今後は韓国のさまざまな楽しみ方を日韓協力して一般の方々に知ってもらう努力が重要だ。きっかけはK―POPアーティストなどさまざまだが、そこから交流が広がっていくことを期待している。

  今、日韓では若い世代が互いの国を好きになり、訪問することが大きな力になっている。若い時に海外旅行を経験することは非常に重要だと思う。海外への修学旅行の促進やパスポート取得の支援など、若い世代が海外に行きやすい環境を整える活動を業界全体でさらに力を入れていかなければならないと思う。航空会社としてもその役割を果たしていきたい。

 田村 若者の海外経験を支援することは非常に重要だ。若いうちに海外を見てさまざまな経験をすることで、世界に関心を持ち、将来グローバルに活躍する人材が育つ。これは日本にとって大切なことであり、若者のアウトバウンドを支援する理由として十分に成り立つと思う。

 日本と韓国は古くから交流があり、航空という手段が発達した現代においては、さらに交流が活発になるのは自然なことだ。世界的に見ても隣国同士の往来は全体の大半を占めており、日韓間にはまだまだ拡大の余地があると考えている。

日韓交流の一層の促進へ、握手する両氏
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