
太陽光発電や風力発電の増加に伴い、再エネ電力の余剰が課題になりつつある。発電時に二酸化炭素を排出しない再エネ電力の活用は重要だが、お天気任せで発電量の変動が大きい。このために使われずに捨てられる時間帯があることは本連載の42に記載した通りである。
この課題は、電力の同時同量の原則だ。電力の供給と需要がアンバランスになると停電してしまう。天候が悪化して、急に太陽光発電の発電量が減った場合に備え、安定した火力発電や原子力発電を稼働しておく必要がある。これがムダになっている。
宿泊施設でエネルギー消費量の大きい空調や給湯、浴槽加温システムの熱源にヒートポンプを使い、再エネ電力が余り気味の時に蓄熱や貯湯する。23年4月の改正省エネ法の施行により、電力の需要の最適化に資する料金体系の仕組みが構築されようとしている。改正省エネ法の施行で、電気の1次エネルギー換算係数を変動させる仕組みが先行している。
しかし、余剰電力が生じるのは、暖冷房の需要の少ない春と秋が中心である。わが国で空調システムに用いる蓄熱は、原子力発電所の稼働による余剰電力解消のために、深夜電力活用を促すように1日単位で行ってきたことから、年間を通した利用ができにくい。一方、給湯と浴槽加温は季節を問わず、年間を通してエネルギー需要があることから、改正省エネ法による料金体系の最適化の恩恵を受けやすい。給湯・浴槽加温システムでの利用は、年間を通して浴槽排湯熱も利用できるし、空調に比べ稼働する日数が長いことから、投資回収期間が短縮になる場合が多い。給湯の省エネ・再エネ熱利用は、別の機会に記したい。
空調設備でも、廉価な電力料金の利用と高価な電力料金の回避をするベネフィットが利用可能である。図のダブル蓄熱システムと地中熱を利用した熱源水ネットワークシステムの組み合わせが有効で、広島大学大学院の松村幸彦教授と金田一清香准教授が提唱されている。ダブル蓄熱システムの活用により、太陽熱やバイオマス熱等の再生可能エネルギー熱の多熱源の利用もシステム構成次第で可能である。
前述の通り、日本の蓄熱は1日単位で行うことが一般的である。これに対して季節間蓄熱という概念のシステムがある。季節間蓄熱は、蓄熱槽が大規模になることから、建物ごとに導入するより、地域熱供給による面的利用が活用しやすい。地域熱供給は、日本だとエネルギー密度の高い都市部に偏在する。デンマークには、農山村部に太陽熱を利用した大規模蓄熱槽(中学校プールの100~150倍の容量)と地域熱供給を組み合わせたシステムがいくつもある。
この他、地中の帯水層と呼ばれる地層に蓄熱するATESと呼ばれるシステムがある。オープンループ方式の地中熱利用技術の一つだ。ATESはオランダで発展しており、約3千システムが導入されている。日本では、JR大阪駅北側・うめきた地区に導入しており、グラングリーン大阪南館では下水熱等と組み合わせて活用している。
次回、クローズドループ方式の地中熱を利用した熱源水ネットワークシステムの紹介と補助金・融資制度に触れ、地中熱の連載をいったん終わりにしたい。
(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)
(観光経済新聞2025年5月31日号掲載コラム)