ユネスコ無形文化遺産の登録実現へ「温泉文化大使」に聞く 加賀の宿 宝生亭 女将・帽子山麻衣氏


帽子山麻衣氏

帽子山麻衣氏

 温泉・旅館関係者や、温泉地を有する都道府県などは、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への登録を目指している。「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会は、登録への機運醸成に向けて、各界の有志を「温泉文化大使」に任命している。登録の実現を応援している観光経済新聞は、「温泉文化大使」に任命されている旅館・ホテル経営者、女将らにインタビュー。「あなたが思う『温泉文化』とは」「『温泉文化』継承の課題は」、そして、登録実現に向けた抱負について聞いた。

開湯1300年の伝統受け継ぎ、若手と手を携え登録実現へ

 ――帽子山さんにとって「温泉文化」とは。

 石川県は本当に温泉が多い地域で、私は和倉温泉出身。旅行に行かなくても当たり前のように温泉に浸かり、ともに暮らしてきたからこそ、今、大使として登録実現に向けて動いていることの意義の大きさを改めて実感している。

 ――山代温泉は今年で開湯1300年を迎えた。

 節目の年を迎え、商店街や温泉通りの皆さんとともに、どのように盛り上げていくか協議している最中だ。

 山代温泉には、昔ながらの温泉文化が色濃く残っている。その象徴ともいえるのが、二つの公衆浴場「総湯」と「古総湯」だ。総湯は加水なしの100%源泉掛け流し。一方の古総湯は、明治時代の総湯を2010年に復元したもので、カランやシャワーがなく、”湯あみ”と呼ばれる当時の入浴方法を再現している。浴室の床・壁などに使用されている九谷焼のタイルも当時のまま忠実に再現されており、「体験型温泉博物館」としての役割も果たしている。

 ――毎年6月に開かれる「しょうぶ湯祭り」も歴史ある伝統行事だ。

 しょうぶ湯祭りは1年の温泉の恵みに感謝するとともに、無病息災や厄除けを祈る祭りで、20歳以上の男性でつくる青年団がしょうぶを詰め込んだ俵を担ぎ、もみ合いながら温泉街を勇ましく練り歩く。路上に散乱したしょうぶは、総湯の湯つぼに投げ込まれ、温泉街一体がしょうぶの香りに包み込まれる。

 一見、大人が中心の勇壮な祭りに見えるが、子どもたちも積極的に参加していて、毎年、小学3年生は授業の一環としてみこしを担ぎ、山代音頭を踊るのが習わしとなっている。また、青年団が湯に投げ入れたしょうぶは翌日、中学生のボランティアが片付けを担い、祭りを支えてくれている。このように世代を超えて伝統が受け継がれ、祭りの文化がしっかりと根付いているのが特徴だ。

 ――新たな取り組みは。

 山代温泉は日本語『五十音』発祥の地。その歴史を生かした事業として、今年の秋ごろに「あいうえおの杜(仮称)萬松園公園」が開業する。敷地内には交流施設やカフェ、キャンプ場などが併設される予定だ。

 ――旅館でのおもてなしも温泉文化の一つだ。

 当館は、ミキハウス子育て総研が認定する「ウェルカムベビーのお宿」の認定宿。山代温泉の泉質はアルカリ性単純温泉で、赤ちゃんの肌にもやさしく、安心して入浴できる。私自身も、生後40日ほどでわが子を温泉に入れていたように、より多くの子どもたちに幼いころから温泉に親しみ、育ってほしいと思っている。大人になった時に、「親に温泉に連れて行ってもらったな」「この辺りの旅館に泊まったな」と思い出してもらえるだけでもうれしく思う。

 宿の名前はなかなか覚えてもらえないのが正直なところだが、その代わりとして小さなアヒルのおもちゃをお土産としてお渡ししている。お子さんが誕生日に「何をしたい?」と聞かれると、「アヒルの温泉に行きたい!」と答えてくれることがあるそう。この取り組みが功を奏し、再訪してくださる方もいる。

 ――後継者不足などの課題は。

 私には4人の子どもがいるが、親の働く姿を見て「旅館で働きたくない」と言われてしまった(苦笑)。そんな中、小さいころから当館に遊びに来てくれていた友人の娘さんが、高校卒業後すぐに若女将(19歳)として働いてくれている。身内が後を継いでくれるのはもちろんありがたいが、「温泉を大切にしたい」「旅館で働いてみたい」という思いを持った人に宿を受け継いでもらえたらとも思っている。旅館で働くことの楽しさを、もっと多くの人に広めてもらえたらうれしい。

 ――登録実現に向けた抱負、業界内に呼び掛けたいことは。

 宿では、温泉文化ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会が制作した「ONSENTシャツ」を着用しての接客や、若女将と一緒にTikTokを撮影して、若い世代にも署名を呼び掛けようと考えているところだ。また、客室内にQRコードを設置し、署名のご協力をお願いしている。「さすが温泉文化大使だね」と言ってもらえるよう、頑張っていきたい。

 先日、石川県の馳浩知事を表敬訪問し、登録実現に向けてさらなるご尽力をお願いした。「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会の事務局長でもある群馬県の山本一太知事とともに、石川県の温泉地を引っ張っていってくれることを期待している。

赤ちゃんの温泉デビューにも安心して利用できる宝生亭の露天風呂(女性用)
赤ちゃんの温泉デビューにも安心して利用できる宝生亭の露天風呂(女性用)

【聞き手・溝部あゆ美】

 
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