
B to Bプラットフォーム商談 旅館・ホテル向けマーケットプレイス
JTB旅連事業は、BtoBプラットフォームの運営を手掛けるインフォマート(本社・東京都港区)と業務提携契約を締結した。宿泊施設と生産者・加工業者をつなぎ、食材の調達業務を効率化する「旅館・ホテル向けマーケットプレイス」を4月に「BtoBプラットフォーム 商談」内に開設した。業務提携についてJTB旅連事業の戒田智彦代表取締役と、インフォマートの中島健代表取締役社長に語り合っていただいた。
――業務提携の背景をお聞きしたい。
戒田 食の魅力は、観光行動と切り離せない要素で、多くの観光客が旅行先の食に高い期待を抱いています。宿泊施設での食への期待も同様で、滞在の付加価値を高める重要な要素です。しかし、昨今の気候変動、異常気象に伴う記録的な猛暑や少雨、海水温の上昇などの影響を受け、食材の供給が不安定になっています。旅館・ホテルの皆さまからは、地域ならではの食材が調達できにくくなってきたという話を頻繁に聞くようになりました。仕入れ先、調達先を増やしたいという相談も増えました。宿泊施設における安定的な食材供給体制が課題です。
当初は、旅館・ホテルと1次産業をデジタルでつなぐプラットフォームを自社で構築することを検討しましたが、開発スピードが最大の障壁になると考え、BtoBプラットフォーム事業を展開されているインフォマートさんに「旅館・ホテル向けマーケットプレイス」の構想をお伝えし、業務提携に至りました。
戒田氏
――インフォマートではどのような事業を展開しているのですか。
中島 当社は「BtoBのプラットフォーム」というように、ビジネスとビジネス、つまり企業と企業の間のやり取りをデジタル化するサービスを提供しています。サービスには大きく二つあって、一つは”出会い”を提供価値とするマッチングサービス。もう一つは、既存の取引先同士をつなぐ”業務効率化”のためのサービスです。
1998年に食品の売り手企業と買い手企業のマッチングサイトとして「eマーケットプレイス」、現在の「BtoBプラットフォーム 商談」を開設しました。食品業界のユーザー企業から「日常的な受発注業務も効率化したい」という声をいただき、「BtoBプラットフォーム 受発注」もリリースしました。これによって飲食店などの発注側と、卸・メーカー、生産者などの供給側との間での受発注業務がデジタルで一元管理できるようになりました。
さらに、ユーザー企業からの「紙で届く請求書もデジタル化したい」というニーズを受け、2015年に「BtoBプラットフォーム 請求書」の提供を開始。紙ベースで行われていた請求書の発行、受領、保管の業務をクラウド上で完結させることで、バックオフィス業務の大幅な効率化を実現できます。ペーパーレス化や配送の負荷軽減によってCO2排出量の削減にも貢献しています。
当社は1998年の設立で、現在は東証プライム市場に上場しております。創業者の村上勝照が、いろいろな事業を手掛けては失敗を重ね、当社を立ち上げました。51歳という若さで他界しましたが、村上の「まだ誰も手掛けていないことで、世の中に役に立ち、喜んでもらえる仕事がしたい」という思いを継承し、経営理念に「世の中の役に立ち、世の中に必要とされ、世の中に喜んでいただける事業を通じ、お客さまと共に会社も個人も成長し続け、社会に貢献していきます」を掲げています。
中島氏
――「BtoBプラットフォーム」の利用企業数は。
中島 「BtoBプラットフォーム」サービス全体の利用企業数は、5月3日時点で延べ118万4391社、事業所数で220万1500カ所、24年度の流通金額は62兆9565億円に上ります。サービス別では、「請求書」が117万5905社、「受発注」が5万1042社、「商談」が1万839社などです。
――宿泊施設に向けた提案の内容は。
中島 「BtoBプラットフォーム 商談」では、オンラインで全国の多様な食材のサプライヤー、メーカー・卸とつながり、効率的に新規仕入先を開拓できます。この中に「旅館・ホテル向けマーケットプレイス」のページを構築し、4月にオープンしました。魅力的な地域産品や代替食材を発見する機会になると思います。宿泊業界では安定的な食材供給体制が課題ということですが、仕入先の多様化による供給リスクの分散、仕入コストの削減にもつながります。マッチング機能による情報収集やWeb商談会を活用すれば、時間とコストをかけずに効率的な調達活動を実現できます。
また、コロナ禍以降、宿泊業界でユーザーが増え続けているのが「BtoBプラットフォーム 受発注」です。旅館・ホテル、外食産業などの発注企業と、サプライヤーである卸・メーカー、生産者が、受発注や請求業務をクラウドで行うことで効率化を実現する仕組みです。「BtoBプラットフォーム 受発注」の流通金額は年間2兆7千億円を超え、フード業界でのシェアはナンバーワンのサービスとなっています。「BtoBプラットフォーム 受発注」がどのくらい普及しているかというと、今、飲食店業界では電気、ガス、水道、インフォマートと言っても、笑われないぐらいです。
――食材調達を取り巻く宿泊事業者の経営課題は。
戒田 インバウンド需要がコロナ禍から回復し、その旅行消費は日本経済の成長に貢献しています。宿泊料の上昇で宿泊業界が潤っているような報道がありますが、そうした恩恵を受けているのは一部の事業者だというのが実状です。
人手不足が深刻な課題で、客室があっても提供できないことによる稼働率の低下や、食事なしの宿泊プランの増加にもつながっています。人手不足の解消に向けて従業員の待遇改善、外国人材の活用、そしてDXの推進が求められています。
食材調達においては、仕入価格の高騰と、食材の不足・供給不安という二重の課題に直面し、安定したメニュー提供や品質の維持を困難にし、顧客満足度を低下させるリスクとなっています。仕入れ担当者の業務負担は増しており、宿泊施設のサービスに影響して収益悪化を招く恐れがあります。
旅館・ホテルの食材調達には、発注―納品―決済に至る一連の流れで多数の取引業者、複数の部門担当者が関わることになり、繁多な業務工数が生まれます。そこにデジタルの力を借りることで、食材の生産者、加工業者とのマッチングから発注、さらには発注データが各部門の担当者へ流れる購買管理の一気通貫モデルが構築できないか。こうした課題の解決をインフォマートさんに期待しています。
中島 当社の「BtoBプラットフォーム 商談(旅館・ホテル向けマーケットプレイス)」を食材調達先の安定的な確保にご活用いただければうれしいですね。新たな調達先を開拓する業務を軽減し、安定した供給ラインの確保と調達コストの最適化につなげていただきたい。「BtoBプラットフォーム 受発注」もご活用いただけると、業務効率化につながります。発注作業と購買管理の効率化で業務負担を大幅に軽減し、人為的ミスの削減と月次の早期確定を実現します。ペーパーレス化によって事務処理コストも削減できます。
――業務提携で目指すところは。
戒田 食材供給の安定化によってお客さまの食事アンケート評価の維持・向上につなげ、旅館・ホテルの提供価値を向上させることです。同時に、DXの推進により宿泊業界の経営改革を後押ししたい。「BtoBプラットフォーム 受発注」などによって食材の原価管理が向上し、損益分岐点比率のコントロールが容易になるはずです。
一方で、観光を支えている食材の生産者、加工業者のDXにも寄与したいと考えています。生産者、加工業者にとっても人手不足は深刻です。DXによる販売管理やマーケティングの効率化で、品質管理や商品開発などにリソースを割くことができれば、食材のさらなる付加価値化につながると思います。
デジタル分野にとどまらず、旅館・ホテルと食材の生産者、加工業者の交流にも発展すればよいですね。生産・食品加工の現場を訪れていただく視察ツアーや交流会の開催なども考えられます。食材の地域ブランド化や地産地消の促進、CO2排出量や食品ロスの抑制などの協働にもつなげたい。「お客様よし」「宿泊施設よし」「生産者・食品加工業者よし」「地域よし」の「四方よし」を実現し、持続可能な社会に貢献していきたいと考えています。
中島 当社の「BtoBプラットフォーム」を核とした食材調達のDX化により、旅館・ホテルの皆さまが新たな経営目標を達成できるようご支援したい。バックヤード業務のDX化は、業務の効率化につながり、旅館・ホテルにおいてとても大切なおもてなしに充てる人員、時間、労力を増やすことができます。デジタルの力で、人によるホスピタリティサービスを強化できると思います。そして、DX化に伴ってデータ活用が進めば、コストの透明化、精緻な原価管理が可能になり、データドリブン経営を加速させることができます。
戒田 宿泊業を盛り上げる、発展させるということがわれわれの根幹です。インフォマートさんとの業務提携を通じたプラットフォームの活用を課題の解決策の一つとして、旅館・ホテルの皆さまにご提案していきたい。
中島 旅館・ホテルをはじめとする観光産業には、地域活性化への貢献という側面はもとより、いろいろな国の人々が交流することで相互理解を深め、世界平和の実現に貢献するという側面があると聞いております。当社もそうした観光の振興に貢献できるような事業を展開していきたいと思います。JTB旅連事業様とインフォマート、双方の強みを生かし、シナジーを最大限に発揮して、ステークホルダーの皆さまからの期待と信頼に応えていきましょう。
インフォマート代表取締役社長 中島健(なかじま・けん)氏
1966年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、1988年に三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。システム部門、海外駐在、法人営業、新規事業開発など多岐にわたる業務を経験。2010年に株式会社インフォマートに取締役として入社し、人事制度の構築やリーダー育成の仕組みづくりに取り組む。2015年には「BtoBプラットフォーム 請求書」を立ち上げ、同サービスを115万社以上が利用するプラットフォームへと成長させた。2022年1月、代表取締役社長に就任。