
梅川智也氏
創刊100年に向け、本紙の進むべき道とは何か。長年本紙と深く関わられてきた識者や経営者、これからを担う経営者に、本紙に期待する、果たすべき役割について、提言を頂いた。
業界新聞の枠を越え観光の進路示して
創刊75周年、おめでとうございます。75年前といえば1950年。終戦から5年、朝鮮戦争の特需により日本がようやく高度経済成長に入るきっかけをつかもうとする頃です。さらに時代背景をみると、終戦から3カ月で運輸省に観光係が設置されて観光行政が復活。戦災復興としての都市公園行政、そして文化財保護行政、国立公園行政等が復活し、翌年には官設国際観光宣伝機関同盟、つまりインバウンド誘致が復活しました。1948年の温泉法、旅館業法、1949年の通訳案内業法、国際観光ホテル整備法と旅行・観光に関する法的整備が進められ、国として観光振興に力を入れつつある、そんな時代に創設されたのが旅館新聞、現在の観光経済新聞社ということになります。
UNWTOの古い報告書によれば、一般的には、「観光産業の発展度合いに応じて、国の関与は異なっていく」とのことです。具体的には第1段階=民間が未発達(国主導の観光政策)、第2段階=民間が参入(国は成長制御、民営化政策等に軸足)、第3段階=民間が成長(国の関与が少なくなり、規制緩和や消費者保護等に軸足)と発展していくと。
どうやら日本は独自の道を進んでいるらしく、民間が成熟しているにもかかわらず、国も強く関与しています。これは、日本の観光政策が国全体の課題である人口減少、地方創生、産業再生、美しい国土づくりなど国づくりの柱に「観光」を位置づけているからに他なりません。
政府・与党は出国税として1人当たり1千円を徴収している国際観光旅客税の引き上げを検討していると聞きます。コロナ後の訪日外国人の急増に伴う諸課題に対応すべく使途の拡大も念頭に置いているとのこと。仮に1千円を2千円にすれば、1千億円近い税収となり、今まで以上に安定的な観光振興に活用できることとなります。
観光経済新聞社には、こうした国や地方自治体の観光政策、観光行政のより幅広い情報収集とより深い解説、論評を期待したいと思います。そして、これからの日本の観光をリードするのは「地域」です。地域の個性を磨き上げることが観光振興、観光まちづくりの要諦となります。個性ある食、地場産業、旅館、温泉、人、手づくり、もてなしの心など地域の個性に丁寧に光をあてる報道姿勢が大事になります。また業界のシンクタンク機能も求められます。そのためには学会などの学術機関や地方の観光系大学との連携なども欠かせません。一業界新聞の枠を越えた日本の観光の進路を示す、そんな役割を期待したいと思います。
梅川智也氏