
2026年度までを策定期間とする中期経営計画で、グループ一体運営の強化を盛り込んでいるKNT―CTホールディングス。グループの中核事業を担う、近畿日本ツーリスト、クラブツーリズム、近畿日本ツーリストブループラネットの社長に、事業構造改革やグループシナジーの最大化に向けた各社の取り組みを聞いた。(本社編集部記者・水田寛人)
個人旅行の発展に向けクラブツーリズムと協業
――昨年6月に近畿日本ツーリストブループラネット(BP)の代表取締役社長に就任された。現在取り組まれていることは。
昨年5月に発表した新しい中期経営計画の通り、近畿日本ツーリスト(KNT)と当社が行っている個人旅行事業を、クラブツーリズム(CT)を軸としてKNTと当社が一体的に運営するという方向性で事業構造改革を行っている。当社の使命は、KNT・CTとのシナジー効果を最大化し、KNT―CTホールディングスグループとして個人旅行事業を発展させること。現在は商品企画におけるCTとの協業を行っている。
――BPの業績回復見込みは。
23年度は客室の仕入れ値が比較的安定していたことに加え、全国旅行支援も実施され回復したが、24年度は訪日旅行需要の急増や物価高騰などにより、宿の仕入れ値が上昇したため、OTAとの価格競争で苦戦した。
24年度の販売高は前年比約9割で、22年度と同等の実績となっているが、営業利益ベースにおいては、KNTとBPの個人旅行事業の合計で22年度より改善している。
顧客分析、商品訴求の改善着手
――グループ全体で事業構造改革が行われている。国内個人旅行事業のCTを軸とした一体的運営として、具体的にはどのような取り組みを。
まずはマーケティング力の強化が急務だ。CTは製販一致や社員添乗などにより顧客接点が多く、顧客ニーズの把握が仕組み化されている。また、デモグラフィック情報やツアー参加履歴などをもとに顧客のセグメンテーションやターゲティングを行っており、AIの活用も開始した。
当社では現在、マスマーケティングが主な手法で、商品企画やマーケティング担当者は十分な顧客接点を有していない。また、コロナ禍で顧客データ分析を休止していた。
そこで今年3月から、当社の顧客データをCTの顧客分析チームと連携する取り組みを約2年ぶりに再開した。CTの協力を得て、5月中にはRFM分析や最新のKNT・CT顧客の重複率などの分析が完了する見込みだ。
――マーケティング強化のほか、取り組むことは。
事業構造改革に伴い、KNTの国内個人旅行商品の企画・ウェブ販売部門が当社に移管されたが、仕入れ部門はKNTにある。
当社が取り扱う宿泊プランや宿泊+交通セット商品にとって、客室仕入れは最も重要な業務であり、仕入れの良し悪しが売れ行きや顧客満足度にも表れる。
2社に分かれているがゆえに、お互いが他人事にならないよう、情報共有だけにとどまるのではなく、両社のミッションを達成するために、同じ数値目標や施策実行に取り組む真の連携強化を図らねばならない。
――販売促進に向けた取り組みについてはどうか。
まずは、当社の顧客はどのようなお客さまなのか、消費者・顧客は何を求めているのかを正しく理解するとともに、商品企画力の強化を行う。昨年9月にはCTから公募でさらに2人の出向社員を受け入れ、国内企画センターに配属した。顧客接点が多い環境下で培った知見を生かし、新しい風を吹かせてほしい。
現在当社では預かり客室を活用したウェブ販売専用宿泊プラン「Eクーポン」を販売しているが、OTAをはじめとする他社との価格競争で苦戦している。その要因の一つとして、需要に応じた適切なタイミングでのEクーポンの料金・内容のリバイスが不十分であることが挙げられる。社員が一日中ウェブサイトをチェックし、価格調整を行うのも大変非効率だ。
そこで、本年度上期までにウェブクローラーを導入するなど、今後、システム面も強化したい。
当社の販売チャネルには店舗もある。今後、店頭販売を管轄するKNTとともにパンフレットの在り方を改めて考え、訴求内容や見せ方も変えていく。
また、CT顧客を対象としたポイント・クーポン施策や、KNTメンバーズクラブ会員へのCT商品の販促も行う予定だ。
――KCP会との連携強化、KNTグローバル営業支店との統合については。
現在、当社の売上の多くを首都圏を中心とした宿泊商品や都市型ホテル商品、テーマパーク商品が占めており、KCP会の宿泊施設さまの販売拡大ができていない。
今後、KNTとともに、お客さま目線に立ったプランの充実化、パンフレット・ウェブサイトでの魅力的な商品訴求に取り組む。将来的には、宿泊施設さまだけではなく、自治体や運輸事業者さま、食事・観光施設さまなどを一つの地域としてコーディネートするような商品造成・プロモーションを行いたい。
また、4月23日の適時開示の通り、今年7月1日付で、当社とKNTのグローバル営業支店が統合する。現在、訪日旅行需要が急増しており、「訪日向け宿泊商品のJTO」の宿泊券販売が大きく伸長している。
今後、戦略的な客室仕入れ体制を構築することにより、現在、訪日旅行市場と国内旅行市場とに分かれている個人旅行事業におけるウェブ販売を拡大させる。
――OTAも強力なライバルだ。
OTAが旅行の検索・予約で順調に利用されている一方、近年TTA(Traditional Travel Agent)の社名指定検索は減少している。こうした中、今まで通りの宿泊プランや宿泊+交通セット商品は、価格勝負の世界では陳腐化していく。そこで生き残っていくためには、価格競争に負けない商品を造成するとともに、購買動機となる宿泊施設さまからお預かりする客室数を増やし、消化率を向上させていくことが必要だ。
――リアルエージェントとして生き残っていくためには。
OTAとは異なる領域での販売強化が必要だ。地域の観光素材を含んだキラーコンテンツがセットされた宿泊プランや着地型ツアーがその一例だ。OTAとの価格競争にキャッチアップしながら、新しい領域で一番になるのが今後目指すべき姿だろう。
――そのコンテンツ造成には、KCP会との連携が必要になる。
BPもKCP会と連携し、購買動機となるコンテンツを自社で積極的に開発できるようになりたい。まずは顧客分析をもとにお客さまのニーズを把握し、KCP会から提供される国内各地の観光コンテンツ情報を独自の商品にブラッシュアップしていく必要がある。
――今年4月にはCTが「パーソナルデザイン旅行センター」を開設した。
まさにそれがCTを軸とした一体的運営の取り組みの一つだ。現在、CTの担当者6人が当社とオフィスをともにし、宿泊施設さまからお預かりしている客室を利用した交通アクセスと観光コンテンツ付き商品を開発している。将来的に、交通アクセス付き商品の企画はCTに集約されていく予定だ。また、当社としてもCTが開発したコンテンツを利用した宿泊プランも造成する。
――会員に向けてメッセージを。
KCP会の宿泊施設さまとの連携が当社独自の商品造成において特に重要だ。お知恵を拝借して、一緒に伴走していただきたいと願っている。
古川優子社長