
ADT認定授与の記念撮影
長崎県北部に位置し、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」や美しい自然、豊富な海の幸、温泉といった多彩な観光資源を誇る平戸市。同市は6月1日、イタリア発祥の観光まちづくりモデル「アルベルゴ・ディフーゾタウン(ADT)」として、自治体単位では世界で初めて認証された。同日、平戸市浦の町の「The 曜 Terrace」前で認証式典が開催され、アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナル会長のジャンカルロ・ダッターラ氏から平戸市の黒田成彦市長へ認証が授与された。市は今後、城下町の歴史的景観や空き家・空き店舗を宿泊施設や飲食施設として活用し、街全体を一つのホテルとして捉え、地域一体となったおもてなしを展開していく。
アルベルゴ・ディフーゾタウン認証授与(左:黒田成彦平戸市長、右:ジャンカルロ・ダッターラ氏)
アルベルゴ・ディフーゾとは
アルベルゴ・ディフーゾは、地域に点在する未活用の建物や空き家・空き店舗を、ホテルのフロント、客室、レストランなどに見立て、地域全体を一つのホテルとして機能させるイタリア発祥の取り組み。「分散型ホテル」とも称され、宿泊者は街を回遊しながら滞在することで、その土地の暮らしや文化を深く体験できる点が特徴だ。平戸市は、この概念をさらに発展させ、自治体全体で取り組む「アルベルゴ・ディフーゾタウン」として世界初の認証を受けた。
歴史的資産を未来へ繋ぐ「懐かしい未来」
認証式典は令和7年6月1日午前10時から執り行われ、ADT認証贈呈、主催者・来賓挨拶、ADTスタートイベントとして環境保全に配慮したバルーンリリース、そして平戸の伝統芸能である平戸ジャンガラが奉納された。
授与者挨拶:アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナル会長 ジャンカルロ・ダッターラ氏
授与者挨拶に立ったアルベルゴ・ディフーゾ インターナショナルのジャンカルロ・ダッターラ会長は、「4年前に初めて平戸を訪れて以来、市長や関係者と多くの協議を重ねてきた。この日を迎えられて本当に嬉しい」と喜びを語った。また、「過去の素晴らしい歴史的建物の価値を認め、未来永続的に残すことがアルベルゴ・ディフーゾの基本方針。過去と現在のバランスを取りながら、訪れる人々にその本来の魅力を伝えていきたい。平戸の観光も成功すると信じている」と期待を寄せた。
認証者である平戸市の黒田成彦市長(平戸市アルベルゴ・ディフーゾ推進協議会会長)は、「これまで市が進めてきた街中の無電柱化、城下町の修景・保存、大島村の伝統的建造物群保存地区といった取り組みが、点から線、そして面として結びつき評価されたことはこの上ない喜び。関係者の皆様に感謝している」と謝辞を述べた。さらに、「この『平戸市アルベルゴ・ディフーゾタウン』は、先人たちが残してきた歴史的な資産や思いを、現代の我々が紡いで未来へ繋ぐ試み。私はこれを『懐かしい未来』と表現している。この事業が空き家・空き店舗問題の解決や新たな地域活性化、観光誘客に繋がることを期待している」と力強く語った。
寺院と教会の見える風景(平戸の異国情緒を代表する観光スポット)
来賓として出席した観光庁の長崎敏志観光地域振興部長は、「観光は成長の柱、地方創生の切り札であると信じ、観光庁は取り組んでいる。平戸市が今回、アルベルゴ・ディフーゾタウンの認証を受け、地方創生の先駆けとして取り組んでいただけることに感謝申し上げる。都市部だけでなく、地方へのインバウンド誘客の流れをさらに強化したい」と述べ、政府としてもこの新たな取り組みを後押しする姿勢を示した。
式典にはこのほか、九州運輸局観光部長の進藤昭洋氏、参議院議員の山本啓介氏、長崎県知事の大石賢吾氏など多数の来賓が出席し、平戸市の新たな門出を祝った。
ADT認定授与の記念撮影
市長インタビュー「マインドセット変革し、人で溢れる街へ」
式典終了後、黒田平戸市長に単独インタビューを行った。
平戸市の観光に対する現在の課題と今後の対策について尋ねると、黒田市長は「平戸市はかつて団体旅行で賑わった成功体験があり、それに引きずられている人も少なくない。まずこのマインドセットを変えることが課題だ」と認識を示す。
そして、「時代は団体旅行から個人旅行へとシフトしている。少子高齢化、空き家・空き店舗の増加、人口減少といった課題に直面する中で、今回のアルベルゴ・ディフーゾタウン認証は、平戸の街並みをそのまま活かし、まちの再生、人の再生を通じて新しい魅力を創造する大きなチャンス。現在は自治体関係者の視察が多いが、今後は特にインバウンド誘客を強化し、平戸がオーバーツーリズムで話題になるほど人で溢れる街にしていきたい」と、力強い意気込みを語った。
平戸市が目指す「街全体がホテル」という新しい旅の形は、日本の観光、そして地方創生のあり方に一石を投じるものとなりそうだ。歴史と文化が息づく平戸の街で、訪れる人々がどのような「懐かしい未来」を体験するのか、今後の展開が注目される。
The 曜 Terraceの客室写真(メゾネットタイプ)
【九州支局長 後田大輔】