
旅行業軸に、地域創生へ貢献
東武トップツアーズの2025年度の事業方針は―。「中核事業と成長事業」について脇坂克也・代表取締役副社長執行役員営業統括本部長に聞いた。(溝部あゆ美記者)
――2024年度事業の回顧を。
まず、外部環境を振り返ると、能登半島地震をはじめ、宮崎の日向灘地震やこれに伴う南海トラフ地震臨時情報の発表、集中豪雨などの自然災害が相次いだ。
政治・経済面では、日米両国のトップが交代したほか、企業業績が堅調な一方、実質賃金がマイナスで消費者は節約志向の1年であった。
当社の事業全体では、一般法人事業や教育事業などの団体旅行は伸長したが、ソーシャルイノベーション事業(公務事業)と個人旅行のD2C(Direct to Consumer)事業は減収となった。ソーシャルイノベーション事業は感染症対策事業縮小が影響し、D2C事業はリベンジ消費の反動や、物価高による消費者の購入意欲の低下が業績に影響を及ぼした。
成長事業に位置付けるインバウンド事業は、過去最高の訪日旅行客数やクルーズ事業の成長を背景に、大きく伸長。スポーツ事業もパリオリンピックの追い風を受け、当社がサポートを開始した1984年開催のロサンゼルスオリンピック以来、最大の収益を達成した。国際大会への協賛も後押しし、事業全体でも前年実績を上回った。
中核事業のうち、一般法人事業は、東京2020大会で構築した協賛企業のネットワークを活用し、新規顧客開拓を着実に推進。その後もパリオリンピックや大阪・関西万博を契機に顧客創出が進み、前年比2桁増となった。
教育事業では、業界他社の事業撤退もあるが、学校現場からの直接オーダーが増加。営業空白地帯だった学校からの引き合いも強まり、受注が拡大した。また、市町村による公立校向け一括発注の広がりにも先行対応し、案件を獲得。こうした取り組みが奏功し、堅調に推移した。
東武沿線事業では、同じ東武グループである東武鉄道との連携を強化。関連企画商品の販売に加え、生体認証事業支援や、沿線自治体と連携し、観光地域の魅力向上にも取り組んだ。
――25年度の事業は。
旅ホ連・運観連会員の皆さまからは「会社は旅行業から離れてしまうのでは」との声をいただくが、あくまで旅行業を基軸とした事業を展開していくという姿勢は今後も変わらないことを改めてお伝えしたい。国際観光旅客税や宿泊税による財源確保を背景に、地域観光振興事業の重要性が高まっており、当社も「地域創生」に貢献していく。直接的な効果はすぐには表れないかもしれないが、地域が元気になれば宿泊観光事業者の活性化につながり、最終的に送客にもつながると考えている。
当社の強みである一般法人事業や教育事業などの団体は、すでに成約が7~8割に達し、受注高も前年同期比で2桁増と好調に推移している。引き続き中核事業として注力していく。
成長事業のデジタル領域は、今年1月1日付の組織改正でDX・Web3.0の対応を見据えた推進室を立ち上げた。給付金や商品券を扱う事務局業務といった各種事業にも取り組みながら、地域課題の解決に寄与していきたい。
インバウンド事業は、さらなる強化に向け「インバウンド事業推進部」を新設した。これまでグローバル事業部に限られていた対応を全国に広げ、地域の機会損失を解消。法人営業との連携も強化し、横展開による受注拡大を図る。今年度は受注額が前年度の1・5倍に達する見込みで、早くも手応えを感じている。
スポーツ事業は、来年開催されるミラノ・コルティナ冬季オリンピック、アジア競技大会およびアジアパラ競技大会(2026/愛知・名古屋)で関係者輸送業務を受注し、着実に準備を進めているところだ。eスポーツ、ホスピタリティ事業でも新たなビジネスチャンスの創出を図る。
――減収がみられた分野はどう補強していく。
今年度からソーシャルイノベーション推進部を「地域創生・ソーシャルデザイン推進部」とし、人口減少や高齢化といった地域課題を解決、「地域創生」を前面に打ち出していく組織とした。
2次交通の空白化が進む地域には、タクシーチケットの電子版「デジタク」などのソリューションを提供。高齢者・障がい者向けのデマンドタクシーや福祉タクシーの仕組みをデジタル化し、自治体業務の効率化にも寄与する。
防災・減災については、発災時の協力協定に加え、平時からの準備や計画策定など支援体制を整備。両連盟とのネットワークを活用し、緊急時の迅速な支援に取り組む方針だ。
D2C事業では、来年にかけてウェブサイトをリニューアルし、個人旅行市場の取り込みを強化する。強みの法人旅行で築いた顧客接点を生かし、商品ラインアップを整備、ウェブ販売の拡大を図る。
――新たな事業展開について。
旅行業の枠を超えたビジネスを生み出す実験的な研究機関として、今年1月に営業統括本部直下に「未来共創ラボ」を新設した。事業の柱は二つで、一つは社員一人一人の頭の中に眠るアイデアや知見を掘り起こし、社内コンテストを通じて事業化を目指すもの。選ばれたアイデアにはプロ人材によるバックアップを提供し、実証実験を経てビジネス化していく。現在、第1回の公募が始まったところだ。
もう一つは、外部企業との連携による新規ビジネスの共創だ。単なる代理店契約や商品販売ではなく、社会課題の解決に向けてビジネスを共同で立ち上げることを目指している。今夏をめどにプラットフォームを整備し、本格化を図る。
――旅ホ連・運観連の存在意義をどう捉えているか。
両連盟には日々多大なるご支援・ご協力をいただいており、感謝しているのは言うまでもない。中には当社の「ファン」だと言ってくださる方もいて、本当にありがたい限りだ。
その上で、私は”共存共栄”の関係性を築いていきたいと考えている。お客さまを送る・送られるという「送客」の関係にとどまらず、新たな需要や付加価値を生み出す「創客」を共に実現していくパートナーでありたい。会員の皆さんは地域の名士ともいえる存在であり、地域の観光振興を進める上で、行政、両連盟、当社が「共創パートナー」としての座組を組めると確信している。個々の力に加え、各支部との連携でより大きな成果を生み出せるはずだ。
脇坂氏